2024.06.14コラム
インプラント治療をしたけど噛みにくい?
インプラント治療をしたけど噛みにくい?とご相談に来院される方がいらっしゃいます。
部分入れ歯を使用しているけど違和感があったり、噛みにくくてインプラント治療を選択される方が多くいらっしゃると思いますが、ほとんどの方は問題なく使用し噛むことができます。
しかし中には噛みにくいと訴えられる患者さんもいらっしゃいます。部分入れ歯は動く=噛めない、インプラントは動かない=噛めるではありません。
インプラント治療は歯科治療の中で特別な治療ではなく、歯を補う補綴処置としての一般的なルールを守られていないとうまくいきません。
今回のコラムでは私が経験した噛みにくいと訴え来院され、改善された例を元に記したいと思います。
目次
インプラント治療をしても噛みにくい理由
1、インプラント上部冠(インプラントの被せ物)でとくに下の奥歯が内側に入っている。
2、歯列のアーチが狭い。
3、上顎の犬歯や臼歯の頬側が内側に急傾斜になっている。
4、咬合平面(咬む面の並び方)の不揃いがある。
5、インプラントの仮歯を適切な期間使用していなかった。
以上のことをもう少し詳しく説明したいと思います。
1、インプラント上部冠(インプラントの被せ物)がとくに下の奥歯で内側に入っている。
私が今まで拝見した患者さんの中で最も多い理由で、最も簡単に改善できる原因です。下の奥歯の歯を作成する場合、内側(舌側と言います)は”パウンドライン”を超えてはならないという大原則があります。
このラインを超えてインプラント上部冠を作成すると、いかに咬む面(咬合面と言います)の形態を天然歯に近づけて上下の歯と接触するように作成してもうまく咬むことができません。インプラント上部冠を装着して違和感があったり、うまく話せない、舌先が痛いなどの症状があればまずはこのことを疑います。
原因が合えば新たにインプラントの仮歯を作成して、装着したその日から症状が軽減いたします。問題なのがインプラント体の位置が既に内側に位置するケースがあります。
そんな場合はインプラントを除去する必要があり、神経を傷つけないように慎重に診断をし、処置する必要があります。
2、歯列のアーチが狭い。
歯並びを歯列と言いまして、一般的には馬蹄形(馬のひずめのような形)と例えられます。
欧米人のような頭が前後に長く、横の幅が短いタイプ(長頭形)の方は歯列も前後に長い馬蹄形をしていることが多く、日本人によくいる頭が横に広いタイプ(短頭形)の方は横に広い歯列であることが多いです。
しかし歯を多く失っていると、歯の位置は移動し歯を失っている部分の骨は吸収も起きているため歯列を把握しずらくなります。(実は歯を失っても顎には元々歯があった頃を予想するランドマークはありますが)
そのためインプラントの上部冠を審美的によく見えるようにであったり、歯科的な理由でアーチを狭く作成することがあります。とくに短頭形の人にアーチが狭い上部冠を装着すると、噛みにくいことがあります。短頭形の人は食べ物を食べる時(咀嚼)の顎の動きは臼磨運動と言い、奥歯ですり潰す左右に顎を動かす動きをします。
でもアーチが狭いと顎の動きが制限されて咀嚼がしにくくなります。また舌が収まるスペース(空間)も狭くなり、窮屈な感じもします。舌のスペースが狭くなると、舌は後方に下がり空気の通り道の気道を圧迫します。
そうなると気道を確保するため、頭は前に出てストレートネックになることもあります。舌と気道についてはコラムの”お子さんの歯並びは何を表しているのでしょうか?
https://licca-implant-center.com/childs-teeth-alignment/
ご参考にしてください。
歯列のアーチが狭く噛めない場合は、舌のスペースも考えて上部冠を作成すると改善することがあります。
3、上顎の犬歯や臼歯の頬側が内側に急傾斜になっている。
前述と同じような理由です。顎が左右に動きたいのにそこに壁が存在するようなイメージです。急傾斜になっている部分を少し調整することで改善します。
もともと歯の位置は舌と頬の力が均衡したところに並びます。インプラント治療は手術後に骨と結合する期間を経ては上部冠ができます。身体にするとある日突然、歯ができることになります。
なのでその形態が身体に合ってるのか診断することが重要です。
4、咬合平面(咬む面の並び方)の不揃いがある。
インプラント治療をする歯と噛み合う歯(対合歯)が凸凹していると、上部冠を装着してもしっかり咬むことができません。
インプラント手術をする前に対合歯の状態を診断せず処置をすると、噛みにくかったり、歯ブラシで汚れが取れにくい上部冠の形態になりますので注意が必要です。
5、インプラントの仮歯を適切な期間使用していない。
インプラントの仮歯は非常に重要な役割を持ちます。前述したように、歯は舌と頬の力の拮抗したところに並びます。歯が欠損した部位の舌は外側に広がり、頬は内側に入ります。
その状態のところにインプラントの歯が装着されますので、最初は違和感を生じたり、口の中が狭く感じたり、頬や舌を噛んでしまうことがよくあります。装着されたインプラント上部冠の形が身体の許容範囲であれば数日で頬や舌を噛まないようになります。
いわゆる”慣れる”≒”順応する”ということです。
特に奥歯を失ってインプラント治療をするときに仮歯は多くの意味をなします。片側の歯を長い期間抜けた状態だと、欠損している側の顎関節内の関節円板(クッションのような役割もする軟骨)が押し潰されている可能性があります。
仮歯の噛み合わせの変化から様々なことを想像し、診断し最終上部冠を装着することが長く安定してインプラントを使用することができます。もし左右のインプラント治療をする予定であれば、抜歯をしてから処置しないといけない、骨造成をしないといけないなどの理由で仮歯の装着時期に差が出た時も、最終的な上部冠を装着するときには同時期に装着すると噛みやすくできます。
当院でのインプラント治療について
当院はインプラント治療をする場合は必ず今後の予防の提案をいたします。
また欠損した部位だけではなくて将来のことも見据えて診断をし、治療の提案をいたします。
詳しくは
https://licca-implant-center.com/treatment/implant/
https://licca-implant-center.com/implant-treatment-know/
https://licca-implant-center.com/implant-treatment/
をご参考になさってください。
当院のインプラント補綴について
当院はインプラント補綴をする際には仮歯を必ず作成します。(特別な理由がなければ)噛み合わせの位置は顎関節の位置で決めると言われます。下顎は筋肉でぶら下げっていて姿勢や頭の位置によって大きく影響を受けます。※下記のイラストでも姿勢によって頭の位置が違うことがわかります。
片方の奥歯が長らく数本欠損していることは、顎と身体の重心はどちらかに偏っていると推測されます。仮歯がお口の中のインプラント体に装着されると、少なからず身体に何か変化が出ると思います。それが”順応”するまで、ある程度の期間が必要と私は考えます。
基本的には仮歯の素材はレジン(プラスチックのような樹脂)で作成しますが、噛み合わせの力が異常に強い方などは金属で作成した仮歯を装着することもあります。するとお口の中は驚きの変化を生じることがあります。
私の経験上で治療が難しい方は身体の歪みが前後、左右だけでなく”ねじれている”患者さんです。そのようなケースはトレーナーのような運動指導者のアドバイスが必要になると思います。
まとめ
インプラント治療は歯を失った方に非常に有効な治療法です。インプラント治療は40年以上の歴史があり、当院でも20年以上使用されている患者さんも多くいらっしゃいますが、他の歯科治療と比べると新しい技術かも知れません。
先人たちはインプラント治療がない頃、ブリッジや入れ歯でどうすれば良い結果が出るのかを積み重ねてきました。その基本的な”歯を補う”ためのルールに沿って治療を受けると大きな問題もなくインプラントを使用することができます。インプラント治療を受ける前に担当医と良く相談して治療を受けることをお勧めします。