2025.04.23コラム
子供の歯並び、悪くなる原因は食事にあった!?「食べる機能」を正しく獲得させるには。

西村歯科心斎橋診療所で勤務しております歯科衛生士の井上です。
今回は口腔機能の発達についてお話しさせていただきます。
日本歯科医師会が全国の15〜79歳の男女10,000人を対象に2022年に実施した「歯科医療に関する一般生活者意識調査」によると10代の48.3%、20代が40.6%が「滑舌の悪さ」「食べこぼし」などの問題を一つ以上経験したことがあると答えています。
また10代の半数が「食事で噛んでいると顎が疲れることがある」と答えておりその割合は70代の(18%)の2.7倍を上回ると報告されている点からも現代の子供達の口腔機能は低下してきていることが想像されます。
この口腔機能の低下の原因について考えるために口腔機能獲得のプロセスからお話ししていきます。
目次
1.哺乳のための解剖学的形態
口腔機能の代表的なものは「食べる機能」と「話す機能」になりますが最初に発達するのは「食べる機能」です。
「食べる機能」の中の「哺乳機能」は学習しなくても原始反射によってあらかじめ備わっているものです。
(原始反射:赤ちゃんが生まれつき備えている反射動作で、生き残るために必要な動きで身体が何らかの刺激を受けた時に無意識に反応すること)
哺乳するには吸啜が必要ですが乳児の口腔内には哺乳をスムーズにするための形態があらかじめ備わっています。
無歯顎(歯が生えていない状態)の乳児には上顎と下顎が接触した状態であっても前歯の部分では上下顎の間に隙間が見られます。これを「顎間空隙」と呼び、乳児が乳首を挟みやすくそしてその隙間に舌を入れて吸いやすくするために備わっている形態です。

さらに上顎では歯が萌出する予定の歯茎の内側が膨らんでおりその奥の後方には、大きなくぼみが存在します。
このくぼみを「吸啜窩」と言います。吸啜窩によって乳首の位置が安定し、新生児・乳児はスムーズに吸啜運動を行うことができます。
2.哺乳運動から食べる機能へ

哺乳のための「機能」はあらかじめ反射として備わっています。
哺乳に関連する反射として①吸啜反射、②探索反射、③口唇反射、④舌突出反射、⑤嚥下反射があげられます。
嚥下反射以外は原始反射であり、一般的に生後4〜5ヶ月ごろまでには消失し、出生児にすでに備わっていた「哺乳」を卒業し「食べる」へ以降します。これ以降は学習によって「食べる機能」(嚥下機能=飲み込む機能や咀嚼機能=噛む機能)を獲得していきます。
「離乳」は初期・中期・後期・完了期に分けられます。
この離乳の時期には学習によって獲得しないといけない「食べる機能」が妨げられないように口腔の形態変化に合わせて食形態を変化させ、食べることを通して口腔機能の獲得を促すことが重要です。
乳幼児期に哺乳から食事へと移行する離乳過程で子供たちは新しい食形態や味を経験しながら食べ物を「口の中に取り込む」「噛む」「飲み込む」機能を正しく学習・獲得しなければなりません。
3. 0歳児からの摂食・嚥下指導
正常に「噛む=咀嚼」「飲み込む=嚥下」という機能を獲得させるためには口腔形態の変化に合わせて、食べ物の硬さや大きさを決定し与えていくことが大切です。

①離乳初期(口唇食べ期 生後5〜6ヶ月)
乳歯はまだ萌出していないため食形態はトロトロ・ドロドロ状のものを与えます。
→ヨーグルトの硬さぐらい
この時期にしっかりと獲得させたいのが、「嚥下時にしっかりと口唇を閉じる」ということです。
離乳初期は舌突出癖が消失し乳歯が萌出を開始し始めることでこれまであった顎間空隙が消失します。
これに伴い舌を前方ではなく、上に押し付けて嚥下を行う成熟(幼児)型嚥下を学習していきます。
※前方に突き出して嚥下するのは乳児型嚥下
②離乳中期(舌食べ期 生後7〜8ヶ月)
口腔内には乳歯が萌出してきます。
つまり、舌が出てくる顎間空隙は消失しているので嚥下の際に舌は前ではなく上(口蓋)に押し付けるような動きへと変化しなくてはなりません。
この時期には初期の食形態は卒業し、舌と口蓋ですりつぶせる硬さのものを与えることで押し付ける動きを獲得させるようにします。
→豆腐ぐらいの硬さ
③離乳後期(歯茎食べ期 生後9〜11ヶ月)
口腔内は上下の乳前歯が生えていて、奥歯の歯茎が膨らんでくる時期です。
歯茎が膨らみ上と下の歯茎が接触するようになります。
上下の歯茎(歯槽部)は舌よりも硬いのでこれまでよりも硬いものをつぶせるようになります。これまで与えていた舌と口蓋でつぶせる硬さのものから少し大きさを大きくしたり、硬くしたりすることで「歯茎食べ」を学習させます。
また歯茎食べをするためには、舌の上にある食べ物を左右の歯茎に乗せる必要があるため、舌は左右の動きを学習していきます。
→バナナぐらいの硬さ
④離乳完了期(歯食べ期 生後12〜18ヶ月)
口腔内には上下の前歯が生えそろい第一乳臼歯が萌出します。これは咀嚼(噛む)を行える口腔形態になったことを意味します。
今までに獲得した「口唇を閉じること」「舌を上下、左右に動かすこと」を使って、前歯で噛み切り奥歯でつぶすということを覚えていくのがこの時期です。
→おにぎりの硬さ
乳臼歯が萌出しているのに咀嚼の必要がない食形態のものばかり与えていると、子供たちは咀嚼という重要な機能をうまく獲得することがはできません。
この時期の歯の萌出段階と食形態のバランスは口腔機能獲得のために重要です。
4.食べる機能の正常な発達‘・学習・獲得を妨げないためには
正常な口腔機能の獲得を難しくする・妨げる要因の代表的なものに吸指癖(指しゃぶり)があります。

吸指癖(指しゃぶり)
吸指癖は離乳後の小児に多く見られる習癖ですが年齢とともに減少していきます。2歳ぐらいまでの指しゃぶりは乳歯列形態大きな影響を及ぼす可能性が低く無理な中止を指示する必要はありません。
ですが、乳歯列完成(2歳6ヶ月ごろ)から3歳以降も持続する場合は乳歯列形態に影響を与える大きな要因となります。
吸指癖は親指を吸っている場合がほとんどで、上下の唇はずっと接しておらず、親指で上の前歯を押し続けている状態になっています。そのため、上の前歯が唇側傾斜(外側に傾く)し上顎前突(出っ歯)になったり、指を吸っている
ことで歯列の側方への成長が妨げられ歯列弓が狭窄(歯の並びのアーチが狭くなる)してしまうこともあります。
そして、習慣化すると辞めさせるのが難しくなったり「咬爪癖(爪咬む)」や「咬唇癖(上下の口唇を前歯で咬む)」といった新たな口腔習癖が出現するともあります。
そのため3歳までに吸指癖を中止させるための準備をしていくことをオススメします。
例えば・・・
寝る前に本を読む時に小児に本の片方を持ってもらったり、小児が寝るまでの間は手を繋いであげたり、指が口に入らないように工夫するといいかもしれません。
また折り紙、積み木など手を使う遊びも生活の中で積極的に取り入れてみましょう。
5.成熟(幼児)型嚥下の獲得の重要性

本来であれば離乳後期(生後9〜11ヶ月)の歯茎食べが始まった頃には乳児型嚥下から成熟型嚥下に自然と移行を開始し、離乳完了期(生後12〜18ヶ月)ごろには成熟型嚥下がしっかり獲得されなくてはなりません。
(乳児型嚥下:授乳時に赤ちゃんがする吸引型の飲み込み方で乳児期の哺乳瓶や母乳を飲むのには適した状態。
舌を前方に突き出して飲み込む方法)
(成熟型嚥下:噛んで口の中で集めて飲み込む、歯が生えてからの嚥下方法。舌が上あごに密着して飲み込む。)
乳歯列期は2歳6ヶ月〜6歳ととても期間が長いです。
この時期に見られる乳児型嚥下は異常嚥下癖という異常な口腔習癖として判断します。
歯を噛み合わせて舌を口蓋に接触させたまま唾液を飲み込むことができるのかを観察し、
上下の歯の隙間に舌の突出が見られれば異常嚥下癖と診断されます。
異常嚥下癖があることでさらに上と下の歯の隙間が大きくなったり(開咬)、前歯が舌の力で前に押し出されたり(出っ歯=上顎前突)どんどん歯並びが悪くなってしまいます。
そうすると上下の唇を閉じておくことが難しくなり「口唇閉鎖不全(お口ポカン)」となります。
そして口唇閉鎖不全は口呼吸を助長してしまい、負のサイクルとなってしまいます。
そのため乳歯列期完成前に成熟型嚥下は獲得されているのかをしっかりと診断する必要があります。
歯列形態を乱す要因で乳児型嚥下の後戻りのきっかけとなる吸指癖は、乳歯列期の早い段階で改善できるように対策を行うことが大切です。
小児期は一度獲得した機能が形態の問題によって簡単に失われてしまう時期です。
乳児型嚥下から成熟型嚥下への移行をスムーズになおかつ確実に獲得させ、成熟期嚥下を維持できるような乳歯列形態を保つことが理想です。
そのためにも吸指癖などの異常習癖による歯列形態の異常がこれまで習得してきた口腔機能の後戻りにつながることを保護者に伝える必要があります。
6.まとめ

現代は軟食が多い生活になり、子どもが自然に口腔機能を獲得するのが難しい社会になりつつあります。
乳幼児期は歯・口のとともに食べる機能が発達するため、食習慣を育てるのに大切な時期です。
歯科からは歯の生え方や口に動きに合わせた離乳食の食べ方のアドバイスをすることが大切になります。
歯がしっかりと生えているのに咀嚼の必要がない食形態や柔らかいものばかり与えていると子供達は「咀嚼」という重要な機能をうまく獲得することができません。
この時期の歯の萌出段階と食形態のバランスは口腔機能獲得のためにとても重要です。
幼少期から口腔内を管理できる私たち歯科医療従事者は虫歯や歯周病の予防だけではなく、口腔機能を高めるような工夫を考えていく必要があります。
子どもの歯並びや口腔機能の問題が気になる方は、西村歯科へぜひ一度ご相談ください
予約はこちらから↓
予約ボタン