医療法人 西村歯科心斎橋診療所

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2026.02.27Newコラム

インプラント粘膜炎と周囲炎の違いとは?歯科衛生士が現場で感じるリアル

インプラント周囲炎になった歯茎

インプラント治療が一般的になった今、「インプラント粘膜炎」と「インプラント周囲炎」という言葉を耳にする機会が増えました。しかし、この2つの違いを正確に理解している方は、実はそれほど多くありません。どちらも“インプラントの周囲に起こる炎症”という点では同じですが、その中身はまったく別物と言ってもいいほど大きく異なります。

歯科衛生士として日々メインテナンスに携わっていると、この違いがどれほど重要かを痛感します。粘膜炎の段階で気づけば改善できるのに、気づかず放置して周囲炎へ進行してしまうケースも少なくありません。例えるなら、粘膜炎は「黄色信号」、周囲炎は「赤信号」です。黄色のうちに止まれば事故は防げますが、赤になってからでは修復が難しくなるのです。

インプラントは天然歯と違い、歯根膜がありません。そのため炎症が起こると防御反応が弱く、一気に進行する可能性があります。だからこそ、違いを正しく理解し、早期発見・早期対応が欠かせません。

この記事では、歯科衛生士目線で、現場のリアルを交えながら、インプラント粘膜炎と周囲炎の違いをわかりやすく解説していきます。

インプラント治療の基礎知識

インプラントのイメージ

インプラントの構造

まずは基本から確認していきましょう。インプラントは大きく分けて3つの構造から成り立っています。

・フィクスチャー(顎の骨に埋め込む人工歯根)
・アバットメント(連結部分)
・上部構造(被せ物)

フィクスチャーはチタン製が主流で、骨と直接結合する「オッセオインテグレーション」という仕組みによって固定されます。これがインプラントの強みであり、同時に弱点にもなり得るポイントです。

天然歯には歯根膜というクッションのような組織がありますが、インプラントにはそれがありません。歯根膜は血流が豊富で、細菌が侵入しても防御反応が働きやすい構造です。しかしインプラントは金属と骨が直接結合しているため、炎症が起こると骨へダイレクトに影響が及びやすいのです。

この違いを知らないまま、「インプラントは虫歯にならないから安心」と思っている方も多いのですが、それは半分正解で半分間違いです。確かに虫歯にはなりません。しかし、歯周病と同じような炎症は起こります。そしてそれが、粘膜炎や周囲炎なのです。

天然歯との決定的な違い

天然歯とインプラントの最大の違いは、「守る組織の構造」です。天然歯は歯根膜、セメント質、歯槽骨といった複雑な構造で支えられています。一方インプラントは、チタンと骨が直接結合しているだけです。

つまり、インプラント周囲の炎症はクッションなしで骨へ伝わります。これはどういうことかというと、炎症が起きたときの“逃げ場”がないということです。天然歯なら腫れや出血で済むケースでも、インプラントでは骨吸収へ直結するリスクがあります。

また、痛みを感じにくいという特徴もあります。患者さんが「痛くないから大丈夫」と思っている間に、レントゲンでは骨が減っていることも珍しくありません。

だからこそ、インプラントは“入れたら終わり”ではなく、“入れてからが本番”なのです。メインテナンスの重要性は、天然歯以上と言っても過言ではありません。

インプラント粘膜炎とは何か

インプラント粘膜炎のイメージ

病態のメカニズム

インプラント粘膜炎は、インプラント周囲の歯肉(粘膜)に限局した炎症です。いわば「インプラント版の歯肉炎」と考えるとイメージしやすいと思います。

原因の多くはプラーク(細菌の塊)です。ブラッシング不足や清掃不良により細菌が増殖し、インプラント周囲の粘膜に炎症を引き起こします。この段階では骨の吸収は起きていません。つまり、まだ引き返せる状態です。

歯科衛生士としてメインテナンスをしていると、「最近ちょっと出血しますね」と患者さんにお伝えすることがあります。それがまさに粘膜炎のサインです。プロービング時の出血、軽度の腫脹、発赤などが代表的な症状です。

ここで重要なのは、粘膜炎は“可逆的”だという点です。適切なプラークコントロールとプロフェッショナルケアで改善が期待できます。言い換えれば、早く気づけば治せる炎症なのです。

主な症状

粘膜炎の症状は比較的軽度で、以下のような特徴があります。

・ブラッシング時の出血
・歯肉の赤み
・軽度の腫れ
・痛みはほとんどない

多くの患者さんは「少し血が出るだけ」と軽く考えがちです。しかし、その“少し”が未来を分けます。

歯科衛生士の立場から言うと、出血は体からのメッセージです。「今ならまだ間に合うよ」というサインなのです。この段階で介入できれば、骨を守ることができます。

しかし、メインテナンスを自己判断で中断してしまうと、炎症は徐々に深部へ進行します。そして次のステージ、周囲炎へと移行する可能性が高まります。

粘膜炎は静かに始まり、静かに進みます。だからこそ、定期的なチェックが欠かせません。

インプラント周囲炎とは何か

インプラント周囲炎のイメージ

骨吸収のメカニズム

インプラント周囲炎は、インプラント粘膜炎がさらに進行し、炎症が骨にまで及んだ状態を指します。つまり、単なる“歯ぐきの炎症”ではなく、“骨が溶けている状態”です。ここが粘膜炎との決定的な違いです。

炎症が長期間続くと、細菌が産生する毒素や炎症性サイトカインが骨に影響を与え、骨吸収が始まります。天然歯であれば歯根膜がクッションとなり、ある程度の防御機構が働きますが、インプラントにはそれがありません。チタンと骨が直接結合しているため、炎症はダイレクトに骨へ伝わります。

例えるなら、天然歯は「防波堤つきの海岸」、インプラントは「防波堤のない海岸」のようなものです。嵐(炎症)が来たとき、ダメージの受け方がまったく違うのです。

歯科衛生士として怖いのは、周囲炎は“静かに進行する”ことです。痛みがほとんどないまま骨吸収が進み、レントゲンで初めて異変に気づくケースも少なくありません。患者さんが「全然問題ないと思っていました」とおっしゃる場面は、決して珍しくないのです。

一度骨が失われると、自然には戻りません。再生療法を行う場合もありますが、必ずしも元通りになるわけではありません。だからこそ、周囲炎は“予防が最優先”なのです。

放置した場合のリスク

周囲炎を放置すると、骨吸収は徐々に拡大します。初期はわずかな吸収でも、進行するとインプラントの動揺が起こり、最終的には脱落することもあります。

主なリスクは以下の通りです。

・インプラント周囲の骨吸収
・排膿(膿が出る)
・深いポケット形成
・インプラントの動揺
・最終的なインプラント喪失

さらに怖いのは、周囲炎は再発しやすいという点です。一度骨吸収が起きた部位は清掃が難しくなり、細菌が停滞しやすくなります。悪循環に陥ると、治療と再発を繰り返すことになります。

歯科衛生士の立場から言うと、「もっと早く来ていただければ…」と感じる瞬間が本当に多いです。粘膜炎の段階なら数回のクリーニングで改善できたかもしれないのに、周囲炎になってしまうと外科的処置が必要になることもあります。

周囲炎は“赤信号”です。止まらなければ、大きな代償を払うことになります。

粘膜炎と周囲炎の決定的な違い

炎症の範囲

粘膜炎と周囲炎の最大の違いは、炎症がどこまで広がっているかです。

項目インプラント粘膜炎インプラント周囲炎
炎症の範囲粘膜のみ粘膜+骨
骨吸収なしあり
可逆性あり基本的に不可逆
治療非外科的処置中心外科的処置が必要な場合あり

粘膜炎は歯肉レベルの炎症で止まっています。しかし周囲炎は骨吸収が起こっています。この差はとても大きいものです。

歯科衛生士としてプロービングを行う際、出血だけで骨レベルに変化がなければ粘膜炎の可能性が高いと判断します。一方でポケットが深くなり、レントゲンで骨の水平的あるいは垂直的吸収が確認されれば周囲炎を疑います。

この違いは、治療方針を大きく左右します。

可逆性と不可逆性

粘膜炎は可逆的です。つまり、原因を除去すれば元の健康な状態に戻せます。しかし周囲炎は不可逆的です。失われた骨は自然には再生しません。

この「戻れるかどうか」という違いは、例えるなら“浅いすり傷”と“骨折”くらいの差があります。どちらも怪我ですが、治療の重みが違いますよね。

歯科衛生士として強く伝えたいのは、「出血は軽視しないでほしい」ということです。たった1回の出血でも、炎症のサインです。それを放置するかどうかで未来が変わります。

なぜインプラントは炎症を起こしやすいのか

インプラントは人工物です。天然歯と違い、自己修復機能はありません。さらに、インプラント周囲の組織は血流が比較的少なく、免疫反応も限定的です。

また、インプラントの形態も影響します。スクリュー形状の溝はプラークが停滞しやすく、一度感染すると除去が難しい場合があります。

加えて、被せ物の形態が複雑だったり、セメントが残留していたりすると、細菌の温床になります。歯科衛生士としてメインテナンスをしていると、「ここは患者さんだけでは絶対に清掃できない」という部位が存在することもあります。

つまり、インプラントは“虫歯にならないけれど、歯周病にはなりやすい”構造なのです。

歯科衛生士が見る初期サイン

私たちが注目している初期サインは以下の通りです。

・プロービング時の出血
・わずかな腫脹
・プラーク付着量の増加
・清掃不良部位の固定化
・ポケットの微妙な深さ変化

患者さんは自覚症状がないことがほとんどです。だからこそ、定期検診が重要です。

メインテナンスは“保険”のようなものです。何も起きていないように見えるときこそ、価値があります。

主なリスクファクター

①喫煙

喫煙は最大のリスク因子の一つです。血流を低下させ、免疫反応を抑制します。炎症が進行しやすく、治癒も遅れます。

②糖尿病

血糖コントロールが不良な場合、感染に弱くなります。周囲炎の進行も早まります。

③不適合補綴物

清掃しにくい形態やセメント残留は、炎症の温床になります。

治療方法の違い

粘膜炎の治療

・プロフェッショナルクリーニング
・ブラッシング指導
・プラークコントロール改善

比較的シンプルな処置で改善が期待できます。

周囲炎の治療

・デブライドメント
・外科的処置
・骨再生療法(場合による)

治療は複雑で長期化することがあります。

メインテナンスの重要性

歯のメンテナンスを行う歯科医師と歯科衛生士

インプラントは“メインテナンス込み”の治療です。3〜6ヶ月ごとの定期検診が理想です。

歯科衛生士として言えるのは、継続している方ほどトラブルが少ないという事実です。

まとめ:守れるインプラントと守れないインプラントの分かれ道

インプラントの模型を持った女性

インプラント粘膜炎と周囲炎の違いは、「骨が守られているかどうか」です。粘膜炎は引き返せます。周囲炎は簡単には戻れません。

小さな出血を見逃さないこと。定期検診をやめないこと。それが、インプラントを長持ちさせる最大のポイントです。

インプラントは一生ものと言われます。しかし、本当に一生使えるかどうかは、日々のケアとメインテナンス次第です。


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