2025.11.19Newコラム
噛む力が衰えると体まで老ける?“咀嚼”と健康の深い関係
目次
はじめに:噛む力が衰えると「老ける」って本当?

「最近、食事中に硬いものが噛みにくい」「以前より顎が疲れやすくなった」──そんな変化を感じたことはありませんか?
実はこの“噛む力の衰え”は、単に歯や顎の問題だけでなく、全身の健康や見た目の若々しさにも大きく関わっています。
歯科衛生士として日々多くの患者さんと接していると、咀嚼力の低下が「顔のたるみ」「姿勢の悪化」「食欲の減退」「認知機能の低下」など、さまざまな老化現象を引き起こすことを実感します。
この記事では、噛む力と健康の密接な関係を、歯科衛生士の視点から詳しくお話しします。
噛むことの基本的な役割とは?

咀嚼(そしゃく)とは、単に食べ物を細かくする動作ではありません。
実は「食べる」以上に、次のような全身の働きに関わる重要な機能なのです。
・消化を助ける:よく噛むことで唾液が分泌され、消化酵素「アミラーゼ」が食べ物の分解を促進します。
・脳を刺激する:噛む動作は脳に刺激を与え、血流を増やし、集中力や記憶力を高めます。
・筋肉や骨の維持:顎を動かすことで、顔や首、頭の筋肉が使われ、フェイスラインの維持や姿勢の安定に繋がります。
・満腹中枢を刺激する:ゆっくり噛むことで食べすぎを防ぎ、肥満予防にも効果的です。
このように、“噛む”という行為は、私たちの健康のあらゆる基盤を支えているのです。
噛む力の衰えがもたらす身体の変化

噛む力が弱くなると、最初に現れるのは「食べにくさ」や「飲み込みにくさ」などの口腔機能の低下ですが、その影響は口の中だけにとどまりません。
1. 栄養バランスの乱れ
硬い食品(肉・野菜・ナッツなど)を避けるようになると、自然と柔らかい炭水化物中心の食生活に偏りがちです。
これが続くと、たんぱく質やビタミン、ミネラルが不足し、筋肉量や骨密度の低下、免疫力の低下を招きます。
つまり、噛めない=老けやすい体になるということです。
2. 顔のたるみ・口元の老化
噛む動作で鍛えられる咬筋(こうきん)や口輪筋(こうりんきん)が衰えると、顔の輪郭がぼやけ、頬が下がり、口角も下がりやすくなります。
これが“老け顔”の原因の一つです。
また、表情筋の動きが減ることで、無表情になりやすく、見た目年齢にも大きく影響します。
3. 姿勢・バランスの崩れ
顎の筋肉と首や背中の筋肉は密接につながっています。
咀嚼力が弱まると頭部を支える力も低下し、猫背や首こり、肩こりが起こりやすくなります。
さらに、姿勢の乱れは歩行バランスにも影響を与え、転倒リスクを高めることもあります。
噛む力と脳の関係:認知症予防にもつながる?

近年、咀嚼と脳機能の関係が多くの研究で明らかになっています。
噛む動作は脳の「海馬」と呼ばれる記憶を司る部分に刺激を与え、血流を活発にします。
その結果、認知機能の低下を防ぎ、集中力や判断力を維持する効果があるのです。
実際、高齢者で「歯が多く残っている人」ほど認知症の発症率が低いというデータもあります。
つまり、歯を守る=脳を守るということなのです。
歯科衛生士としては、歯の本数よりも「しっかり噛める状態を保つこと」が何より重要だと感じています。
咀嚼力を保つための食生活のポイント

噛む力を維持するためには、日々の食生活が非常に重要です。
以下のポイントを意識するだけでも、咀嚼力の衰えを防ぐことができます。
1. よく噛む習慣をつける
・一口30回を目安に噛む
・食材の形や歯ごたえを感じながら食べる
・早食いを避ける
2. 噛みごたえのある食材を取り入れる
・根菜類(にんじん、ごぼう、れんこん)
・ナッツ類
・こんにゃく、干物など
3. 食事の姿勢にも注意
・背筋を伸ばし、両足をしっかり床につけて食べる
・顎を前に突き出さず、正しい噛み合わせで咀嚼する
咀嚼は「筋トレ」と同じ。毎日の食事がトレーニングの場なのです。
歯科衛生士が教える!簡単“噛む力”セルフチェック

自分の噛む力がどの程度なのか、以下のチェックで簡単に確認できます。
| チェック項目 | 該当する項目 |
|---|---|
| せんべいやスルメが噛みにくい | □ |
| 硬い肉を避けることが多い | □ |
| 食事中に顎が疲れやすい | □ |
| 食べ物をよく噛まずに飲み込む | □ |
| ほうれい線が目立ってきた | □ |
3つ以上当てはまる場合は、咀嚼力が低下しているサインかもしれません。
歯科医院でのチェックや相談をおすすめします。
噛む力を取り戻す!歯科衛生士おすすめのトレーニング法
噛む力が落ちたからといって諦める必要はありません。
筋肉と同じように、咀嚼に関わる筋肉も“鍛え直す”ことができるのです。
ここでは、自宅でできる簡単なトレーニング法を紹介します。
1. ガムトレーニング
無糖ガムを使って、左右均等に噛む練習をします。
ポイントは、片側だけで噛まないこと。左右交互に10回ずつ噛み、ゆっくりリズムよく続けましょう。
ガムの弾力は咀嚼筋を刺激し、唾液の分泌も促します。食後に取り入れると一石二鳥です。
2. あいうえお体操
口輪筋を鍛えるための簡単な体操です。
顔全体を大きく動かしながら、「あ・い・う・え・お」とゆっくり発音します。
ポイントは、頬や口の動きをしっかり意識すること。毎日1分続けるだけでもフェイスラインが引き締まります。
3. 舌回しトレーニング
舌回しトレーニングは、舌や口まわりの筋肉を鍛えて、噛む力・飲み込む力・フェイスラインの引き締めに効果的な簡単エクササイズです。
口を閉じたまま、舌先で歯ぐきの外側をなぞるようにゆっくり1周します。右回り10回、左回り10回を目安に行いましょう。顎や首に力を入れず、舌だけを動かすのがポイントです。
歯の喪失と噛む力の関係

歯を失うと、噛む力は一気に低下します。
特に奥歯(大臼歯)を失うと、噛む力は最大で約50%も落ちるといわれています。
その結果、硬い食材を避けるようになり、前述のように栄養バランスの崩れや筋肉の衰えへとつながってしまいます。
しかし、インプラント・ブリッジ・入れ歯などの補綴治療を適切に行うことで、咀嚼機能を取り戻すことは可能です。
ただし、重要なのは「入れたら終わり」ではなく、「入れた後のケア」。
歯科衛生士としては、定期的なメンテナンスとクリーニングで、装置を快適に保つことを強くおすすめします。
噛む力が与える“見た目の若返り効果”

咀嚼力を保つことは、実は“自然なアンチエイジング法”でもあります。
噛むことで顔の血流が促され、皮膚の代謝がアップ。さらに表情筋が鍛えられ、リフトアップ効果が得られます。
よく噛む人ほど若々しい理由
・顎まわりの筋肉が引き締まり、小顔効果がある
・唾液分泌が活発になり、口臭・乾燥・シワを防ぐ
・食事を楽しむことで表情が豊かになる
美容の面から見ても、**「噛むことは最高のフェイストレーニング」**なのです。
噛む力と全身の老化:サルコペニアとの関係

「サルコペニア」とは、加齢による筋肉量の減少を指しますが、実は口の中にも“オーラル・サルコペニア”という概念があります。
これは、咀嚼や嚥下(飲み込み)に関わる筋肉の衰えを意味します。
咀嚼筋が弱まると食事量が減り、栄養不足が進行。結果として全身の筋肉量まで減少してしまうという悪循環に陥ります。
つまり、「噛む力の衰え」は全身の老化の入り口なのです。
この連鎖を止めるためには、「よく噛んでしっかり食べる」という基本動作を意識的に維持することが何より重要です。
口腔機能低下症とは?

近年、歯科医療の現場では「口腔機能低下症(こうくうきのうていかしょう)」という言葉が注目されています。
これは、加齢や疾患などによって口の機能が少しずつ衰えていく状態を指します。
症状としては以下のようなものが挙げられます。
・食べ物を噛み切れない
・飲み込みにくい
・食べこぼしが増えた
・舌や唇の動きが鈍い
・発音が不明瞭になった
これらは「老化だから仕方ない」と思われがちですが、早期に気づいて対処することで改善が可能です。
定期的な歯科健診を受け、プロの視点で状態をチェックすることが大切です。
歯科衛生士が伝えたい、噛む力を守るための生活習慣

噛む力を保つには、歯そのものだけでなく「生活全体の見直し」が必要です。
1. 歯を守る基本ケア
・毎日の歯磨きを丁寧に
・デンタルフロスや歯間ブラシで汚れを残さない
・定期的にプロのクリーニングを受ける
2. 栄養と水分をしっかり摂る
筋肉や歯ぐきを維持するためには、たんぱく質・カルシウム・ビタミンDが不可欠です。
また、水分不足は唾液量の減少を招くため、こまめな水分補給も意識しましょう。
3. ストレスを溜めない
ストレスは食いしばりや歯ぎしりの原因になります。
深呼吸や軽い運動、趣味の時間を持つことで、口の健康にも良い影響を与えます。
まとめ:噛む力を保つことは“若さ”と“健康”を守ること

噛む力の低下は、単に「食べにくい」という問題では終わりません。
それは、体の栄養バランス、筋肉の衰え、姿勢の悪化、さらには脳の老化にまで影響を及ぼす、まさに“全身の老化のサイン”です。
歯科衛生士として強く感じるのは、「噛むこと」は私たちの健康を支える最も自然で基本的な行為であるということ。
食べ物を味わい、顎を動かし、脳を刺激し、顔の筋肉を使う──その一つひとつが、若々しさを保つ秘訣なのです。
今日からできることはたくさんあります。
よく噛む食習慣を意識する、歯の定期健診を受ける、口の体操をする。
ほんの少しの意識と習慣の積み重ねで、10年後のあなたの健康や見た目は確実に変わります。
「噛む力を守ることは、自分自身の未来を守ること」
そのことを、ぜひ今日から心に留めてください。
