2025.07.14Newコラム
インプラント治療には仮歯が必要です。

こんにちは。
大阪市中央区心斎橋にある西村歯科心斎橋診療所、院長の秦です。
仮歯シリーズの第3弾として、今回はインプラント治療における仮歯の役割やトラブルについて書きたいと思います。
目次
インプラントの仮歯の役割
①機能の回復とリハビリテーション
②審美的な歯肉の形態を作る。
③清掃性(上手く歯ブラシが当たるのか)の確認する。
の大きく分けると3つの役割があります。
その中でも最も重要なのが、①機能の回復とリハビリテーションです。
①機能の回復とリハビリテーションについて
インプラント治療は”歯を失ったところに人工歯根にて歯を補う。”治療になります。
基本的には歯が無かったところに歯を作るのは、天然歯に被せ物を装着する治療と大きく違いがあります。
インプラントは歯が無かったところに突如として歯ができます。
その変化を理解するためにはまず”歯を失ったら何が起きているのかを理解する必要があります。
右下の第一、第二大臼歯が欠損した場合を例にお伝えしたいと思います。

・頬は内側に寄り、舌は外側に寄る。
本来、歯は歯の種類によって決まった場所に萌出し、頬と舌の力が拮抗するところで位置付けされます。

そのため歯が無くなるとそのスペースを埋めるように、頬の粘膜は内側へ、舌は外側に寄ります。
歯が萌出する時はゆっくりと頬の力と舌の力のバランスが拮抗した場所に生えますが、インプラントは突然、歯を失ったところに人為的(歯科医師の治療により)に歯ができます。
インプラント上部冠(インプラントの被せ物)は解剖学的に問題のない位置に埋入し装着されますが、歯があった頃とは頬の力、舌の力は違いますので最初は上手く噛めないことがあります。
正確に申しますと、噛めるのですが頬と舌も噛んでしまいます。
安心してください。インプラントの仮歯を装着後2日〜2週間で頬と舌は噛まなくなります。
実はこの変化はダイナミックで重要な変化をして私は認識しております。
いつまでも頬や舌を噛む患者さんは噛み合わせのバランスに問題があるかもしれないので、噛み合わせの治療が必要な場合はさらに慎重に診断する必要があります。
余談ですが、インプラント治療が無かった頃にはブリッジか取り外しの入れ歯しかありませんでした。
ブリッジは自分の歯を利用した治療になりますので、大きな問題が出ることは少なく、入れ歯も取り外しができるので噛めない以外に大きな問題は出ません。
しかしインプラント治療は骨をインプラント体(チタン)を結合させ噛めるようにする治療なので手術後にインプラントの位置を動かすことはできません。
解剖学的に、また、その人に合ってない位置にインプラント体を埋入するといくら上部冠の形態を調整しようが上手く噛むことはできません。
インプラントと骨を結合させる事には高い技術が必要ではないかも知れませんが、長く快適にインプラントを使用するためには高い技術と知識、診断力が必要不可欠です。
さらに余談ですが、歯並びが悪い子供が非常に増えていますが原因は頬と舌の力のバランスが悪いからです。
ではなぜ頬と舌のバランスが悪いのかは舌の力が弱い”低位舌”や嚥下がしっかりできず頬を使い過ぎていることなどの発達不全が原因であることが多くあります。
詳しくはコラムの”お子さんの歯並びは何を表しているのでしょうか?”をご覧ください。
・噛み合ってた右上の歯が下がっている。



歯は噛み合う歯がないと”伸びて”きます。それを歯科では”挺出”すると言います。
歯の根っこが伸びるのではなく、上顎の歯は下に下がる(挺出)し、下顎の歯は上に上がる(挺出)します。
欠損している期間が長いと挺出量も多くなります。
少し挺出しているくらいなら、そのまま仮歯を装着し様子を見ますが、挺出している量が多い場合、削って調整したり、被せ物を入れて”咬合平面”を整える必要があります。
”咬合平面”が乱れていると噛み合わせが上手くいかないのでせっかくインプラント治療をしても快適に使用することが難しくなります。
詳しくはコラムの”インプラント治療をしたけど噛みにくい?”を参考になさってください。
・右で噛めないため身体の重心は左に傾いている。

長らく左噛み合わせになっていると身体の重心も偏り、場合によっては骨盤の高さ(仙腸関節)に違いが起きます。
そこにしっかり噛めるインプラント上部冠が入りますと、身体にも変化が起きます。
変化は自覚することはありませんが、理論的に変化が起きても不思議ではありません。
仮歯はそんな変化が起きるであろうと考えて使用していただきます。
以上のことからインプラントの仮歯はリハビリテーションとして多くの意味がある処置でありますので、インプラント治療において当院では必ず”インプラント仮歯=インプラントプロビジョナル”を使用する期間を設けております。
②審美的な歯肉の形態を作る。
インプラント体に上部冠を装着すると歯肉の形が変わる離ます。
奥歯ではあまり問題になりませんが、前歯や審美的な部位に関しては重要なファクターになります。
前歯の場合は仮歯を装着後に約1mm下がり、その変化が安定するのは3ヶ月と言われています。


歯肉の安定を待たずに最終上部冠を装着すると、話すと空気が抜けるや食べ物が詰まりやすいなどの問題が起きます。
仮歯を適切に歯科技工士が作成することと、生体の変化を注視し最終上部冠の作成をしていきます。
③清掃性(上手く歯ブラシが当たるのか)の確認する。

インプラントは虫歯になることはありませんが、歯周病(インプラント周囲炎)にはなります。
詳しくは当院のホームページのインプラントメンテナンスをご参考になさってください。
歯周病の原因は細菌性のプラークですので歯周病治療を開始する時には必ずブラッシング指導を受けると思います。
いくら歯科医院で歯科衛生士がクリーニングを徹底しても、その日は綺麗な状態ですが毎日適切な歯ブラシをしないと全く治療効果はありません。
インプラント治療においても長期に安定して使用するためには、プラークコントロールが必須です。
でも患者さんがいくら丁寧に歯ブラシや歯間ブラシを使用したとしても、もともとのインプラント上部冠の形態が歯ブラシが当たらない形で装着されているとプラークを取り除くことができません。
当院では歯科医師がインプラントの仮歯を装着後に、必ず担当衛生士が患者さんに処方している歯ブラシ、歯間ブラシでしっかりプラークを除去できているのか確認します。
治療する歯の本数が多い場合も出来るだけ歯ブラシの種類が増えないように考えます。
また仮歯を作成する歯科技工士には前もって歯間ブラシのサイズを伝え、仮歯を作成していただきます。
上手く作成されていない場合は再制作することもありました。
まとめ
いかがでしょう。
仮歯ですが実は非常に重要な役割があるのをご理解いただけましたでしょうか。
もちろんケースによっては仮歯が必要ではないこともあります。
仮歯の必要性なのかどうかは主治医と相談して決めるといいと思います。
なぜ当院ではほとんどの患者さんに仮歯を装着するのかと言いますと、過去の失敗や他の医院から転院されてこられ、噛めないとおっしゃる方のお話を聞くと仮歯を装着していなかったり、仮歯を使用している期間が短すぎることがあったからです。
仮歯を使用する2〜3ヶ月や少し来院回数が増えることは、患者さんが長くインプラントを使うことを考えるとこだわるべきことを考えています。
ただ重要なことは仮歯が良くても最終上部冠を仮歯で得たことをいかせてなければ全く意味はありません。
なので当院では定期的に歯科技工士と情報を共有することを大切にしております。 インプラントの仮歯が割れるなどのトラブルについてはまた後日に”インプラントの仮歯について 第2弾”でお伝えできればと考えております。