2026.02.11Newコラム
「もう歳だから」と諦めるのはまだ早い。高齢者のインプラント治療における【 3つの真実】と【7つの判断基準】

こんにちは。大阪市中央区の西村歯科心斎橋診療所、院長の秦です。
目次
はじめに:なぜ今、高齢者のインプラントが増えているのか?
かつては「インプラントは若くて骨が丈夫な人のもの」というイメージがありました。しかし現在、当院でも70代、80代でインプラント治療を希望される患者様が急増しています。
その背景には、平均寿命の延びだけでなく、「健康寿命」への意識の高まりがあります。 「ただ長生きするだけでなく、自分の口で美味しいものを食べ、家族と楽しく会話をして過ごしたい」 そう願う方にとって、ガタついて痛い入れ歯や、味がわからなくなる総入れ歯は、QOL(生活の質)を大きく下げる要因となってしまうからです。
結論から申し上げますと、「年齢」そのものは、インプラント手術を断る理由にはなりません。 医学的に、骨とインプラントが結合する能力に、年齢による大きな差はないことが分かっているからです。
重要なのは、年齢という数字ではなく、「お体の状態(全身疾患)」と「生活環境(サポート体制)」です。
ちなみに私が執刀したインプラント手術で最も高齢な方は90歳の女性でした。

高齢でインプラントをするメリット・デメリット
治療を検討する前に、ご本人とご家族様でしっかり共有していただきたい「光と影」があります。
【メリット】人生の質が劇的に向上する
1. 食事の制限がなくなる:タコやイカ、漬物、お肉など、入れ歯では敬遠していた硬いものや繊維質のものが噛めるようになります。「食事が美味しい」ことは、栄養摂取を改善し、免疫力を高めます。

2. 認知症の予防効果:「噛む」という行為は、脳への血流を増やし、脳神経を刺激します。しっかりと噛める高齢者は、噛めない人に比べて認知症のリスクが低いというデータが多数報告されています。
3. 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)のリスク低減:よく噛んで飲み込む機能(嚥下機能)が維持されることで、高齢者の死因上位である誤嚥性肺炎を防ぐ効果が期待できます。
4. 会話が弾み、社交的になる:入れ歯が外れる心配がないため、大きく口を開けて笑ったり、はっきり喋ったりできるようになります。
【デメリット・リスク】乗り越えるべき壁
1. 外科手術の負担:麻酔や手術に伴う体へのストレスはゼロではありません。
2. 治療期間の長さ:骨とインプラントが結合するのを待つ期間が必要です。
3. 費用の問題:保険適用外の高額治療となります。
4. メンテナンスの継続:認知症が進んだり、寝たきりになったりした時に、誰がどうやって口の中を掃除するのか、という将来的な課題があります。
インプラントができるか? 7つの「具体的判断基準」

歯科医師は、高齢の患者様のインプラント治療を検討する際、単に口の中を見るだけでなく、全身の状態を総合的に見て判断します。具体的には以下の7つのポイントがクリアできるかが鍵となります。
判断基準①:コントロールされた全身疾患
持病があっても、数値が安定していれば治療可能なケースが多いです。しかし、以下の状態は要注意です。
糖尿病
高血糖状態(HbA1cが高値)が続いていると、手術の傷口が治りにくく、感染症のリスクが高まります。また、インプラントと骨の結合も阻害されます。主治医と連携し、数値がコントロールされていれば可能です。
高血圧・心疾患
手術中の血圧上昇がリスクになります。静脈内鎮静法などで血圧を管理しながら行う必要があります。半年以内に心筋梗塞や脳梗塞の発作があった場合は、原則として手術は延期となります。
判断基準②:服用している薬の種類
特にお薬手帳の確認が必須となるのが「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」のお薬です。
ビスフォスフォネート製剤(BP剤)
骨粗鬆症の治療薬として広く使われていますが、副作用として、抜歯やインプラント手術をきっかけに顎の骨が壊死する「顎骨壊死(がっこつえし)」のリスクが報告されています。
※絶対にできないわけではありませんが、服用期間やリスクの程度(注射か内服か)を考慮し、場合によっては休薬期間を設けたり、医科の主治医と相談の上で慎重に判断したりする必要があります。
血液サラサラの薬(抗凝固剤・抗血小板剤)
血が止まりにくくなるため、手術前後の休薬が可能か、あるいは止血シーネ(マウスピース)などで対応可能かを判断します。
※当院では持病をお持ちのすべての方に主治医先生への対診書を遅らせていただき、全身の状態を把握して治療、メンテナンスを致しております。
判断基準③:顎の骨の量と質
高齢になると、歯周病や加齢により顎の骨が痩せて薄くなっていることが多いです。 インプラントを埋める十分な骨がない場合、「骨造成(骨を増やす手術)」が必要になりますが、高齢の方にとって手術回数や侵襲が増えることは負担になります。
無理な骨造成を避け、短いインプラント(ショートインプラント)を使うか、骨がある場所を選んで埋入する技術が可能かを検討します。
判断基準④:手術に耐えうる体力
治療椅子の上で1時間〜2時間程度、口を開けたままじっとしていられるか、という点も重要です。腰痛がひどくて仰向けになれない、頻尿で長時間の手術が不安、といった場合は、休憩を挟みながら行うか、静脈内鎮静法などを活用します。
判断基準⑤:認知機能の状態
ご自身で歯磨きの重要性を理解し、実行できる認知機能が必要です。 もし認知症の兆候がある場合、手術後のメンテナンスができず、インプラント周囲炎(インプラントの歯周病)になり、最悪の場合抜け落ちてしまう可能性があります。
※認知症がある場合でも、ご家族や介護者の十分なサポートが得られるなら可能なケースもあります。
判断基準⑥:喫煙習慣
高齢の方に限った話ではありませんが、喫煙は血管を収縮させ、酸素や栄養の供給を阻害するため、インプラントの成功率を下げます。ご高齢で代謝が落ちている場合、その影響はより顕著になります。原則として禁煙が望ましいです。
判断基準⑦:ご家族の理解と協力体制
これが高齢者のインプラントにおいて最も重要な「鍵」と言っても過言ではありません。 詳しくは次章で解説します。
【家族相談】介護を見据えた「出口戦略」とは

ご高齢の方のインプラント治療は、ご本人と歯科医師だけの話し合いで決めるべきではありません。必ず、息子様、娘様、あるいは配偶者の方など、ご家族の同席・同意をお願いしています。
なぜなら、「今は元気でも、5年後、10年後はどうなっているか分からない」からです。
「もしも寝たきりになったら?」を考えておく
今はご自身で歯磨きができていても、将来、脳梗塞や認知症で介護が必要になる日が来るかもしれません。その時、インプラントはどうなるでしょうか?
インプラントは天然の歯よりも細菌に弱く、丁寧なケアが必要です。しかし、介護ヘルパーさんや施設のスタッフさんが、複雑なインプラントの清掃を完璧に行うのは困難な場合があります。
「インプラント・オーバーデンチャー」という選択肢
そこで、高齢の方に特におすすめしているのが、「インプラントを用いた入れ歯(インプラント・オーバーデンチャー)」です。
これは、少数のインプラント(2本〜4本)を埋め込み、それをボタンや磁石の力を使って入れ歯をパチンと固定する方法です。
メリット1:管理が楽
入れ歯自体は取り外しができるので、外して丸洗いができます。口の中に残っているインプラントの突起は単純な形なので、ご本人や介護者の方でも歯磨きが非常に簡単です。
メリット2:手術の負担が少ない
埋める本数が少ないため、手術時間も短く、費用も総インプラントにするより抑えられます。
メリット3:しっかり噛める
通常の入れ歯のようにガタガタ動いたり、痛かったりすることがなく、インプラントの固定力でしっかり噛めます。この方法は、「噛む機能」と「将来の介護のしやすさ」を両立させた、高齢化社会における非常に賢い選択肢です。
治療の流れと、当院の安全対策
高齢の患者様に安心して治療を受けていただくために、当院では通常のインプラント治療よりもさらに慎重なステップを踏んでいます。
① 全身状態の徹底的な把握
お薬手帳の確認はもちろん、必要に応じて内科や整形外科の主治医(かかりつけ医)に対して、診療情報提供依頼書(紹介状のようなもの)を送り、「インプラント手術を行っても問題ないか」「薬の調整は必要か」を医学的に照会します。
② CT検査とシミュレーション
顎の骨の状態や神経・血管の位置を3次元CTで正確に把握します。 さらに、コンピューター上で手術のシミュレーションを行い、神経を傷つけない安全な深さや角度を決定します。
このデータを元に「サージカルガイド(手術用定規)」を作成し、無切開や最小限の切開での手術(フラップレス手術)を目指します。これにより、術後の腫れや痛みを大幅に減らすことができます。
③ 生体モニターによる管理
手術中は、血圧、脈拍、血中酸素飽和度、心電図などをリアルタイムで監視する生体モニターを使用します。万が一の体調変化にも即座に対応できる体制を整えています。
よくある質問(Q&A)
ご家族様からよくいただくご質問にお答えします。
Q. 85歳の母が「インプラントをしたい」と言っていますが、家族としては心配です。
A. お母様の「噛みたい」という意欲は素晴らしいことです。まずは検査を受けて、リスクとメリットを天秤にかけてみてはいかがでしょうか? もし骨の状態や持病でインプラントが難しい場合でも、「吸着性の高い入れ歯」など、今の辛さを解消する別の選択肢をご提案できるかもしれません。「相談に行く=手術決定」ではありませんので、ご安心ください。
Q. 手術後の腫れや痛みが心配です。
A. 骨造成などを行わず、通常のインプラント埋入であれば、抜歯と同程度かそれ以下の痛みで済むことがほとんどです。高齢の方は組織の反応が穏やかなため、むしろ若い方よりも腫れにくいという傾向さえあります。痛み止めと抗生物質を服用していただくことで、日常生活に支障が出ることは稀です。
Q. 認知症になったら、インプラントは撤去するのですか?
A. 基本的には撤去しませんが、管理ができずに周囲が化膿してしまった場合は、撤去や、上部構造(被せ物)を外して歯茎の中に埋めてしまう処置を行うことがあります。そうならないために、当院ではご家族やケアマネージャーと連携した訪問歯科診療への移行なども視野に入れています。
まとめ:ご家族と一緒に作る「美味しく食べる幸せ」

「年齢が高いから」という理由だけで、食べる喜びを諦める必要はありません。 医学的な管理と、将来を見据えた適切な計画があれば、80代でも90代でもインプラント治療は可能ですし、それによって得られる笑顔や活力は計り知れません。
しかし、それは「ただ歯が入ればいい」というものではありません。 持病のこと、薬のこと、そして将来の介護のこと。 これら全てをクリアにして初めて、成功する治療と言えます。
当院では、ご高齢の患者様ご本人はもちろん、ご家族様のご不安やご疑問にも時間をかけて丁寧にお答えします。 「母に美味しいステーキを食べさせてあげたい」 「父のボソボソ喋る自信のなさを解消してあげたい」 そんなご家族の温かい想いを、ぜひ私たちにお聞かせください。
まずは一度、ご家族ご一緒にカウンセリングへお越しください。 その一歩が、これからの豊かな人生への入り口になるはずです。
【シニア・ご家族向け相談会 実施中】
当院では、ご高齢の方のインプラント治療に関する無料相談を行っております。 ご本人様の来院が難しい場合、まずはご家族様だけでのご相談も可能です。 CT検査や持病の確認を含め、どのような治療がベストか、専門医が親身になってアドバイスいたします。
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