2026.02.06Newコラム
カウンセリング・治療・予防をつなぐチーム医療

目次
はじめに:歯科医療は「歯を治す」だけでは終わらない
歯科医院で働いていると、「歯が痛いから来ました」という一言の裏に、実にさまざまな背景があることに気づかされます。
仕事が忙しくて何年も歯科から足が遠のいていた方、子育てに追われて自分のことは後回しになっていた方、過去の治療で怖い思いをして歯科医院そのものに苦手意識を持っている方もいます。
歯の症状は同じでも、その人が置かれている環境や気持ちは一人ひとり違います。だからこそ、私たち歯科医療従事者には、「歯だけを見る」のではなく、その人自身を見る姿勢が求められていると感じています。
近年、歯科医療の現場では「チーム医療」という考え方がとても大切にされています。これは決して新しい言葉ではありませんが、実際の現場でどれだけ実践できているかは、医院ごとに差があるのが現状です。
私自身、歯科衛生士として働く中で、チーム医療がうまく機能しているときほど、患者さんの表情が柔らぎ、前向きな変化が生まれることを何度も経験してきました。
このコラムでは、カウンセリング・治療・予防を一つの流れとして捉え、それをチームで支える歯科医療について、歯科衛生士の目線からお伝えしたいと思います。
歯科衛生士から見た「チーム医療」の本当の意味

歯科医療におけるチーム医療とは、単に「役割分担をすること」ではありません。
歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、受付スタッフが、それぞれの立場で得た情報や気づきを共有し、同じゴールに向かって患者さんを支えていくことだと考えています。
歯科医師は診断や治療方針を決定する中心的な存在です。一方、歯科衛生士は患者さんと過ごす時間が比較的長く、治療前後やメインテナンスの中で、自然と会話を重ねる機会が多くあります。そのため、患者さんの生活背景や性格、治療に対する不安や本音に触れる場面が多くなります。
たとえば、
「実は痛みよりも、音が怖いんです」
「治療費のことが少し心配で…」
「家ではなかなか歯磨きの時間が取れなくて」
こうした言葉は、診療台の上ではなかなか出てこないこともあります。しかし、何気ない会話の中でぽつりと話してくださることがあります。
それを「雑談」で終わらせるのではなく、医療情報としてチームに共有することが、歯科衛生士の大切な役割の一つです。
また、受付スタッフが感じた患者さんの様子や、歯科助手が治療中に気づいた小さな変化も、チーム医療ではとても重要です。
「今日は少し緊張されているみたいですね」
「前回よりも表情が明るいですね」
こうした情報があるだけで、声かけや対応が変わり、患者さんの安心感につながります。
カウンセリングが担う、見えないけれど大切な役割

カウンセリングという言葉を聞くと、少し構えてしまう方もいるかもしれません。しかし、歯科でのカウンセリングは、特別なことをする時間ではありません。
患者さんの話を聴き、気持ちを受け止め、必要な情報を整理する――その積み重ねがカウンセリングです。
初診時には、症状や既往歴を確認するだけでなく、歯科医院に対するイメージや不安についても、できるだけ丁寧に伺うようにしています。
「歯医者さんは久しぶりですか?」
「これまでに大変だった治療はありますか?」
こうした問いかけ一つで、患者さんの表情が変わることもあります。
中には、「怒られそうで来づらかった」と打ち明けてくださる方もいます。その言葉を聞いたとき、私たち医療者側の何気ない一言や態度が、患者さんにとって大きな壁になってしまうこともあるのだと、改めて考えさせられます。
歯科衛生士として心がけているのは、評価や指導から入らないことです。
「どうして磨けていないんですか?」ではなく、
「どんなときに磨きにくいと感じますか?」
という問いに変えるだけで、患者さんは話しやすくなります。
カウンセリングは、治療をスムーズに進めるためだけのものではありません。患者さんが「ここなら自分のことを分かってもらえる」と感じるための、大切な土台なのです。
不安を共有することで、治療は変わる
カウンセリングで得た情報は、必ず歯科医師に伝えます。
たとえば、「麻酔が効きにくかった経験がある」「音に敏感で緊張しやすい」といった情報があれば、治療の進め方や声かけの仕方が変わります。
実際に、不安を事前に共有できたことで、
・こまめに声をかけながら治療を進める
・休憩を挟みながら無理のないペースにする
・治療内容を事前に丁寧に説明する
といった配慮ができ、患者さんが「思っていたより楽でした」と笑顔で帰られる場面も多くあります。これは、歯科医師一人では難しいことです。
カウンセリングを通して患者さんの気持ちを受け取り、それをチームで共有するからこそ実現できる医療だと感じています。
治療を支えるチーム連携 ― 見えない部分での支え合い

治療そのものは歯科医師が中心となって行いますが、その背景には多くのスタッフの支えがあります。歯科衛生士は、治療の補助をしながら、患者さんの表情や呼吸、ちょっとした仕草を注意深く見ています。
言葉にしなくても、「今、少し緊張しているな」「痛みを我慢していそうだな」と感じる瞬間があり、そうしたサインを歯科医師にさりげなく伝えることも大切な役割です。
また、治療前後の説明を補足するのも歯科衛生士の役目です。歯科医師の説明はどうしても専門的になりがちですが、患者さんが本当に理解できているかどうかは、会話の中で見えてきます。
「つまり、今日はここまでということですね」
「次回は○○をする予定なんですね」
と、患者さんの言葉で確認することで、不安や誤解を減らすことができます。
こうした小さな積み重ねが、治療に対する安心感を育て、結果的に治療の質を高めていると感じています。
予防歯科は「一緒に育てていく」医療

治療が終わった後、本当の意味で大切になってくるのが予防です。
歯科衛生士にとって、予防歯科は単なるメインテナンス業務ではなく、患者さんと長く関わり続けるための大切な時間です。
予防の現場では、歯石やプラークの付着状態だけでなく、歯ぐきの色や引き締まり、出血の有無など、さまざまなサインを確認します。そして、それらを患者さんにも分かりやすく伝えるよう心がけています。
「ここはとてもきれいに磨けていますね」
「この部分は少し磨きにくそうですね」
と、良い点と改善点をバランスよく伝えることで、患者さんのモチベーションを保つことができます。
また、生活習慣の聞き取りも欠かせません。夜勤がある方、外食が多い方、介護や育児で自分の時間が取れない方など、背景はさまざまです。その方の生活に合わないセルフケアは、どんなに理想的でも続きません。
「完璧」を目指すのではなく、「続けられること」を一緒に探すのが、歯科衛生士の役割だと思っています。
カウンセリング・治療・予防がつながる瞬間

カウンセリングで不安を共有し、治療で問題を解決し、予防で良い状態を維持する。この流れが自然につながったとき、患者さんの意識に変化が現れます。
「前は痛くなってから来ていたけど、今は悪くならないように通っています」
「歯のことを考える時間が増えました」
こうした言葉を聞くたびに、チーム医療の力を実感します。
歯科医療は、短期的な結果だけでなく、長い目で見た健康を支える医療へと変わってきています。その中心に、歯科衛生士が関われていることは、大きなやりがいです。
患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイド医療

チーム医療の大きなメリットは、患者さん一人ひとりに合わせた対応ができることです。同じ歯周病でも、通院頻度やセルフケアの方法、声かけの仕方は人によって変わります。
チーム内で情報を共有しているからこそ、
「前回ここが不安そうでしたよね」
「この方は説明をしっかり聞きたいタイプですね」
といった細やかな配慮が可能になります。
患者さんから「ちゃんと覚えてくれているんですね」と言われたとき、チーム医療の価値を改めて感じます。
チーム医療がもたらす患者さんの変化
チーム医療が根づいてくると、患者さん自身が主体的に医療に関わるようになります。
質問が増えたり、自分から生活習慣を見直そうとしたりする姿を見ると、「一緒に健康をつくっている」という感覚が生まれます。
それは、医療者側が一方的に与える医療ではなく、患者さんと共に歩む医療です。歯科衛生士として、その過程に関われることは、大きな喜びです。
歯科衛生士として大切にしていること
歯科衛生士の仕事は、技術や知識だけでは成り立ちません。患者さんの話を聴くこと、気持ちに寄り添うこと、そしてチームにつなぐこと。そのすべてが合わさって、初めて信頼関係が築かれます。
忙しい日々の中でも、「この方は今日、どんな気持ちで来院されたのだろう」と想像することを忘れないようにしています。
おわりに:一人ではなく、みんなで支える歯科医療

高齢化が進み、全身の健康と口腔の健康の関係が注目される今、歯科医療の役割はますます広がっています。チーム医療は、その変化に対応するために欠かせない考え方です。
歯科衛生士は、患者さんに最も近い存在として、これからもチームの中で重要な役割を担っていくと感じています。
歯科医療は、誰か一人の力で成り立つものではありません。患者さん、歯科医師、歯科衛生士、スタッフ全員がチームとなり、同じ方向を向いて進むことで、初めて本当の意味での医療が実現します。
歯科衛生士として、これからもやさしく、丁寧に、患者さんのそばで支え続けていきたいと思います。
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