2024.10.23コラム
新型栄養失調や隠れ栄養失調が引き起こすお口と全身への影響
西村歯科心斎橋診療所で勤務しております、歯科衛生士兼オーソモレキュラー栄養医学認定ONPを取得しております叶より、新型栄養失調や隠れ栄養失調が引き起こすお口と全身の健康への影響についてのお話をさせていただきます。
目次
メタボリック・ドミノ
2003年に慶應大学医学部、伊藤祐先生の提唱された「メタボリック・ドミノ」では、さまざまな生活習慣の乱れが肥満やインスリン抵抗性を引き起こし、ドミノ倒しのように連鎖することで糖尿病や動脈硬化症を発症し、その合併症により腎機能障害などのさまざまな病気が起こってくることを表しました。
実は、この生活習慣の乱れの始まりは歯科の2大疾患である「虫歯」や「歯周病」などから始まっていると言われています。
特に、日本人の約70%以上の方がこの虫歯と歯周病で歯を失っており、その原因には、以前は虫歯菌や歯周病菌による感染症と言われていた時代もありましたが、現在はストレスや生活背景にある偏った食生活などのさまざまな要因が重なることで発症することがわかってきました。
新型栄養失調・隠れ栄養失調
ここでお話させていただく「栄養失調」は、今の日本ではあまり関係のないことだと思われていたり、痩せている人を想像する人が多いかと思います。
しかし、現在の日本では実は体重が平均よりも多い人や働く女性の「新型栄養失調」が問題視されるようになってきました。
そのため、いつの間にか体に不調が起きている、もしくは体の不調が当たり前になってしまい、その不調に気づいていない「隠れ栄養失調」を引き起こしているかもしれません。
今回は、この栄養失調によってお口や体全体にどのような影響が起こる可能性があるのか、
その予防策についてもお話させていただきます。
栄養失調とは?
そもそも栄養失調とは、主にエネルギー量が不足している状態をいいます。しかし、ここでお話しする「新型栄養失調」「隠れ栄養失調」ではエネルギー量は十分足りている状態でも、たんぱく質やビタミン・ミネラルなどの体に必要な栄養素が不足している状態のことをいいます。そのため、痩せ型の方や肥満の方にも起こり得ます。
また、現代社会では女性や子供の食事制限による無理なダイエットや食生活の偏りなどが原因で体に必要なカロリーだけでなく、たんぱく質やビタミン・ミネラルなどが不足してしまうことで栄養失調が起きてしまったり、壮年期の男性では、コンビニ食やラーメン、ファストフードなどの手軽にカロリー摂取ができる食事が多くなることで糖質過多による栄養失調が起こります。そして、高齢の方では歯を失ったことで食べられるものが限られてしまい、消化機能の衰えなどによって食事が偏りがちになってしまい、栄養失調が起こっている可能性があります。
新型栄養失調からくる体の変化
新型栄養失調からくる体の変化をご紹介します。
それぞれ足りない栄養素によって症状は変化しますが、以下のような症状が現れることがあります。
- ・抜け毛が多い
- ・筋力低下、体重減少
- ・疲れやすい
- ・便秘や肌荒れ
- ・気持ちが不安定
などが、あげられます。
特に新型栄養失調では食事量が少なく、1日の水分摂取量も少なくなってしまうことから、体が脱水に近い状態になってしまう場合があります。
脱水状態になるとお口の中に症状が現れやすく、お口の中が乾燥しやすくなったり、唾液に粘り気が出るなどの症状を引き起こすため注意が必要です。
お口は第一の消化器官
お口は第一の消化器官と言われています。
まず、食事をする際に食べ物はお口の中で細かく噛み砕いて食道を通り、胃の中で一度とどまります。そこで強い酸性の胃液で食べたものをドロドロに溶かし、十二指腸で消化液と混ざります。
そこから、消化液によって食べ物の栄養を細かく体に吸収しやすい形に変化させることで小腸を進みながら体内に吸収されていきます。そのため、まず初めに食べ物を細かく噛み砕くための歯や噛み合わせがないと、食べられるものが限られてしまったり、偏食傾向になってしまいます。このお口の中の問題が、いつしか全身の健康へ大きな影響を与えることがさまざまな研究で明らかになってきています。
そして、ライフスタイルの変化や食生活の欧米化によって栄養の偏りが出てくることで虫歯や歯周病のリスクもともに上がり、お口の中の健康にも影響してしまいます。
肥満と肝炎
世界の肥満人口はライフスタイルの変化や食生活の変化により1975年から40年間で急速に増えてきており、2016年に発表された世界約200ヵ国を対象としたBMI調査によると、世界の肥満人口は6億4100万人に増加し、2025年には約20%が肥満になると予測されています。
それに伴い、人間ドックでの生活習慣病関連項目では肥満者数が増加するにつれて、耐糖能異常や、高血圧、高コレステロールの異常を示す人が増えており、特に肝機能の異常を示す人たちが増加しています。
この肥満に伴う肝機能異常の増加に関わる肝疾患は、「非アルコール性脂肪性肝疾患」と言われており、アルコールを飲まない人や偏った食生活によって肥満の方だけでなく、痩せ型の人でも起こりうる疾患です。
肝疾患というと、A型肝炎やウイルス性肝炎、アルコール性肝炎が一般的によく知られていると思いますが、これらの肝疾患は進行してしまうと肝硬変や肝がんになってしまいます。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NFLD)
この非アルコール性脂肪性肝疾患(NFLD)は病態進行を示さない良性の脂肪肝ですが、その中でもNASHと呼ばれている非アルコール性脂肪肝炎は炎症と繊維化を伴い、さらに進行すると肝硬変や肝がんへと移行する可能性のある脂肪肝です。
NAFLDは世界的に罹患率が高く、欧米諸国で20〜40%、日本でも10〜30%言われており、肥満者の増加に伴いさらに増加すると予測されています。
病態の進行しずらい非アルコール性脂肪肝ですが、炎症が起こり、繊維化が徐々に進行してしまうとNASH(非アルコール性脂肪肝炎)を発症する多数の危険因子があるため、適切な予防や早期治療介入が必要な疾患として世界的に注目されています。
歯周炎と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
歯周病になってしまうと歯の周りを支えている歯肉が破壊され、歯周ポケットと呼ばれる深い溝ができます。この歯周ポケット内には歯垢や歯石が蓄積し、歯垢の中の細菌により傷害されて歯周ポケット内に潰瘍が形成されます。この潰瘍が形成された歯周組織では炎症が起きているので、細菌の出す毒素などが簡単に血管内に侵入し、血流に乗って全身に運ばれ、お口の中だけでなく全身へ影響を及ぼします。
この歯周炎が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発症と病態を促進してしまう危険因子となりうると言われており、マウスモデルを用いた実験では歯周病菌の中で最も毒性の高いと言われているPG菌をマウスに感染させ、歯周病に罹患させたマウスと健康なお口のマウスに普通食と高脂質食のエサを与えたところ、普通食を与えた歯周病のマウスは肝重量の増大や繊維化は特に認められませんでしたが、高脂質食を与えた歯周病のマウスは歯周病に罹患していないマウスと比較すると病態の進行が非常に速く、お口から感染したPG菌が肝臓で検出され、肝臓における炎症反応が増強し、初期の繊維化が起きることが明らかになりました。
また、その歯周病菌が腸に到達し、腸内細菌層の変化を誘導して、NASHの病態を悪化させるという報告もあります。
この実験結果により、「歯周病原菌と高脂質食」という組み合わせが病気の進行に関わっていることが考えられます。
高タンパク・低糖質(3大栄養素について)
新型栄養失調、隠れ栄養失調による生活習慣病に悩むことなく、健康的な生活を送るためには必要な栄養素を適切に摂取することが大切です。
人間の体は骨や筋肉、脂肪、皮膚などで構成されており、食品に含まれているたんぱく質や脂質、糖質の3大栄養素と呼ばれている身体に必要不可欠な栄養成分をバランスよく摂取する必要があります。
身体を構成する筋肉や皮膚、血管、歯ぐきなどをつくるには主に「たんぱく質」が必要となり、脳をはじめ身体を動かすエネルギーとなるのは主に「糖質」と「脂質」です。
現代社会では、主な主食がご飯やパン、麺類などにより糖質過多になってしまっている場合が多く、肉類や豆類といったたんぱく質が不足しやすいため、身体を作るたんぱく質を積極的に摂取する高たんぱく低糖質を意識して摂取することをおすすめします。
この高たんぱく質とは、1日に体重1kg×1.5〜2gを目安に摂取します。動物性と植物性のたんぱく質を組み合わせ、毎食の食事にたんぱく質を摂取することを心がけることで効率よく摂取することができます。
お口と全身の健康を守るために
お口は全身の健康を守る入り口です。
虫歯や歯周病で一度歯を失ってしまうと、元通りの健康な歯は戻ってくることはありません。
食事をする際に必要な歯や噛み合わせが失われてしまうと、食事で摂取した栄養素も上手く消化することができず、身体に必要な栄養素が正しく消化、吸収、代謝の流れが行われずさまざまな生活習慣病や身体の不調につながります。
お口の中の健康も同じく、糖質過多による虫歯リスクの増加や歯を支えている歯ぐきは主にたんぱく質で構成されていることから、食事の内容が偏ってしまうと全身の不調だけではなく、お口の健康も阻害してしまいます。
このように、双方のアプローチを適正に行うことがお口の中や全身の健康を守るためにはとても大切です。
身体の不調が気になる方やお口の健康を守りたい方は、栄養についてのご相談も随時承っておりますので、西村歯科心斎橋診療所へ一度ご相談ください。