2024.09.11コラム
歯の神経をとらないといけない!と診断を受けたら。
ずきずき痛い、噛むと痛い、冷たいもの、熱いものがしみるなど、お口の痛みのトラブルはさまざまです。
歯科医院に通う理由の一つとして痛みがあります。
歯科の基本的な役割として痛みを取り除くことが挙げられますので当然のことと思います。
歯の痛みがあると、痛みを感じる歯の神経(歯髄)を取り除くと痛みは治るのですが、全ての場合に歯の神経を取り除く必要があるのでしょうか?
歯の神経をとることは歯の痛みをなくすために必要な処置ではありますが、神経を取り除くと様々なリスクが生じます。
今回のコラムでは歯の神経を取らないといけないかもと診断された場合どのような処置が必要なのか記したいと思います。
目次
神経を取り除かないといけない歯の状態とは?
虫歯が大きい場合
虫歯が大きいと歯の中の神経(歯髄)に細菌が感染している可能性が高くなります。
虫歯はエナメル質から象牙質、歯髄へと進行しておきます。
虫歯は穴が開いていたり、表面がザラザラしていますので磨き残しやプラーク(細菌の塊)が留まりやすくなります。
エナメル質の範囲内ではあれば歯髄に感染はしません。
また適切な予防メンテナンスを受けることで虫歯の進行を抑えることができます。
エナメル質を通り抜けて象牙質にまで到達した虫歯は歯髄に対して少なからず影響を与えます。
象牙質まで達した虫歯は冷たいものを食べた時に歯がしみる症状や、甘いのもを食べると痛みを感じることがあります。
象牙質と歯髄は象牙細管という非常に細い管で繋がっています。
その非常に細い象牙細管内の液体が移動することによって痛みを伝達すると言われており、その細管を通して細菌が歯髄に感染します。
細菌の感染量が多く、歯髄の大半に及んでいる場合は激しい痛みが出ますので歯髄を取り除く根管治療が必要になります。
強い知覚過敏
知覚過敏とは文字通り”知覚が過敏”な状態です。
普段ではしみないほどのものがしみたり、風が当たるだけでもしみることがあります。
知覚過敏の原因としては歯肉退縮(歯ぐきが下がって歯根が見えている状態)や歯軋り、食い縛りなどの力により起きます。
知覚過敏には知覚過敏抑制剤などを歯に塗ることで対応します。
ケースによっては噛み合わせの調整も必要になる場合があります。
滅多にないのですが、それでも改善しない場合は神経を取る選択をすることもあります。
歯冠破折
歯冠破折とは歯の歯茎より上の部分が一部かけてしまうことを言います。
破折した部分に神経が露出した状態になっていて感染が認められる場合、神経を取り除く処置になります。
ちなみに歯冠破折とよく似た状態で歯根破折があります。
歯根破折とは歯の根っこ(歯根)部分が折れることでほとんどの場合、抜歯になります。
補綴のための便宜的な処置
補綴とは失った歯の部分を金属やセラミックによって補うことです。
歯医者さんで言われるいわゆる”被せ物”のことを差します。
例えば上のイラストのようにブリッジを入れる時には、両隣の歯を削らないといけません。
歯の形を作るためにも最低限削らないといけない”厚み”があります。
その”厚み”を確保するために歯を削ると歯髄に近くなったり、歯髄が露出する場合があります。
またブリッジを入れるためには両隣の歯が平行でないとブリッジが入りません。
平行性を保つために歯を多く削る場合もあります。
歯髄までが近いと被せ物を装着後に痛みが出ることから、神経を便宜的に取り除く歯科医院も存在します。
神経を保存する方法
大きな虫歯の場合
①覆髄法(間接覆髄法)
虫歯の部分を削ると歯髄までは到達していないけど、そのまま被せ物を入れると痛みが出ます。
そのような場合は歯髄を保護するためにコンポジットレジンやグラスアイオノマーセメントで一部保護する方法を”覆髄”といいます。
古くから歯科で利用されている方法で、”覆髄”をすることで処置後の痛みも出にくくなります。
②ステップワイズエキスカベーション法
とくに若い患者さんの虫歯を治療するときに用いる方法です。
若い患者さん、小学生、中学生の歯は生えて間もないことから幼弱永久歯と言われます。
幼弱永久歯は大人の永久歯より酸によって溶かされる限界pHは高く、虫歯になりやすいのが特徴です。
そんな幼弱永久歯の虫歯は急速に進行してしまいます。
特に幼弱永久歯の虫歯になっている部分は健康な部分より硬さが非常に柔らかいことがあります。
柔らかくなった歯の部分を全て取り除いてしまいますと、歯髄まで簡単に到達してしまいます。
小中学生の時に神経を失うことは絶対避けないといけません。
ステップワイズエキスカベーションとは、虫歯になっている一部の部分を残した状態でHY剤(タンイン・フッ化物合剤)を充填し、その上からコンポジットレジンで封鎖します。
3〜6ヶ月後にHY剤の効果により虫歯の部分が殺菌、再石灰化された部分を保存し再度封鎖しなおします。
ステップワイズエキスカベーションは幼弱永久歯の歯髄を保存するのにたいへん有効な方法です。
③直接覆髄法
虫歯が大きくて歯髄に到達している場合、多くは虫歯になっている部分を削ると歯の神経(歯髄)は露出します。
露出したからといって歯髄を取り除くのではなく、直接的に歯髄が露出した部分を水酸化カルシウムやMTAセメントで充填し封鎖することで歯髄を保存する方法です。
直接覆髄法も古くから歯科では用いられていまして、成功率は高くはありませんでしたがMTAセメントの開発により成績は大きく改善されました。
術中に感染が及ばないように、しっかり接着封鎖するために、ラバーダム防湿が必要です。
④部分断髄法
感染した歯髄のみを除去(断髄)して、歯髄を保存する方法です。
感染した歯髄のみ除去することは歯科用顕微鏡にて色や質感で判断して取り除きます。
健康な歯髄を保存しMTAセメントで充填し、コンポジットレジンで接着、封鎖します。
直接覆髄法と同様にラバーダム防湿が必要です。
歯冠破折の場合
歯冠が破折して歯髄が露出している場合は、直接覆髄法か部分断髄法が適応となります。
どちらにしても処置中に感染しないようにラバーダム防湿が必須です。
またしっかり接着、封鎖し、リーケージ(漏洩)がないように処置することが重要となります。
そのため歯冠が破折した部分の被せ物は適合が良い(歯と被せ物に隙間がない)ことが求められます。
補綴のための便宜的な理由
ブリッジにするためには大きく歯を削らないといけません。
歯を長く持たせることを考えると新たに歯を削る前にインプラント治療が適応するのかを診断を受けることをおすすめします。
インプラント治療をしていない医院を受診している場合はセカンドオピニオンを受診することもお考えください。
ブリッジではなくても上下の歯並びや噛み合わせの関係で被せ物を入れるために多く削らないといけないケースがあります。
また削る量が少なくても元々の歯がすり減っていて、歯髄に近い場合もあります。
そんなケースでは歯冠部歯髄のみ取り除き、歯根部歯髄を保存する部分断髄法を選択します。
歯根部の歯髄を残すことで、将来起こりうる歯根破折を予防することができます。
神経を取り除く根管治療とは?
コラムの”歯の神経の治療(根管治療)は回数(時間)がかかる?”を参考にしてください。
https://licca-implant-center.com/dental-nerve-treatment/
まとめ
神経を取るようになる前に予防メンテナンスを受けましょう。
適切な虫歯予防法を理解して、質の高い予防メンテナンスを受けていると虫歯になることは予防できます。
仮に虫歯になったとしても重症ではない状態で治療ができますので、神経を取り除くことは稀な処置になります。
精度の高い治療や様々な技術革新により歯髄を保存することができるようになりましたが、最も重要なことは予防メンテナンスです。
なので当医院では全ての患者さんに予防メンテナンスを提供しています。