2025.10.08Newコラム
噛める入れ歯を作るために重要なポイント

「ただの人工物」ではない、カラダの一部となる総入れ歯
こんにちは。大阪市中央区心斎橋t駅から徒歩1分の西村歯科心斎橋診療所、院長の秦です。当院の医院名は”心斎橋インプラントセンター”も併記しておりますように、インプラント治療に長く携わってきた歯科医院です。
そのため入れ歯治療はしないと思われがちなのですが、必要に応じて入れ歯治療もしております。
今回のコラムでは、そんな入れ歯を噛めるように作るためにポイントなどをお伝えしたいと思います。
さて、歯をすべて失ってしまった方が、再び食事や会話を楽しむために欠かせないのが「総入れ歯」です。しかし、「入れ歯は合わない」「痛い」「すぐに外れる」といったネガティブなイメージをお持ちの方も少なくありません。
なぜ、こうした問題が起こるのでしょうか?
それは、単に顎の形に合わせただけの入れ歯では、お口の中の複雑な動きに対応できないからです。本当に快適で、あなたの一部となる総入れ歯を作るためには、単なる型取り以上の、高度な技術と緻密な工程が求められます。
今回は、総入れ歯を製作する上で、私たちが特に重要視している3つのポイントについて、詳しく解説します。
1.「入れ歯と顎堤の型取り」だけでは不十分
2.「舌、頬、唇」の動きと調和する形
3.「正確な噛み合わせ」がすべてを決める
この3つの要素が完璧に揃ってこそ、まるで天然の歯があった頃のように、快適で安定した総入れ歯が完成するのです。
1. 顎堤の型取りだけではダメな理由

総入れ歯は、歯ぐきの下にある「顎堤(がくてい)」と呼ばれる土手に乗せる形で安定させます。そのため、顎堤の形を正確に型取りすることは、もちろん非常に重要です。
しかし、歯科医院で「精密な型取り」と言うと、単に顎の土手の形を正確にコピーすることだと思われがちです。実は、この認識が「合わない入れ歯」を生み出す原因の一つとなっています。
私たちの口の中は、常に動いています。食事をするとき、会話をするとき、そしてただ唾液を飲み込むだけでも、顎は動き、顎堤の形もわずかに変化します。
この変化に対応できなければ、いくら精密に作った入れ歯でも、動いた瞬間にずれたり、外れたりしてしまいます。
そこで私たちは、静止した状態の顎堤の形だけでなく、お口の周囲の筋肉や粘膜が動いている状態を再現しながら、型取りを行います。
・動的な型取り:型取り材が固まるまでの間に、患者さんに舌を動かしたり、頬を膨らませたり、口を「いー」とすぼめたりしてもらいます。これにより、顎堤の形だけでなく、口の動きに合わせて変化する周囲の粘膜や筋肉の形までを入れ歯に反映させることができます。
・正確な印象(型取り):型取り材は、わずかな空気の泡や歪みも許されません。顎堤の表面の細かな凹凸、粘膜の柔らかさ、そして血管の走り方までを正確に再現することで、吸着力が高く、外れにくい入れ歯の土台を作ります。
このように、ただ顎の土台をコピーするのではなく、**「機能している時の顎の形」**を精密に型取りすることが、快適な入れ歯を作るための第一歩となるのです。
2. 舌、頬、唇との調和が「入れ歯の安定」を生む

総入れ歯の「吸着力」は、単に顎堤とのフィット感だけで決まるわけではありません。実は、入れ歯と舌、頬、唇が触れる部分の形態が、吸着力と安定性を大きく左右する重要なポイントとなります。
例えて言うなら、吸盤です。吸盤は、平らな面に密着させることで、内部の空気を抜き、外気圧によって強く吸い付きます。総入れ歯もこれと同じ原理で、入れ歯と歯ぐきの隙間から空気が入らないようにすることで、高い吸着力を生み出します。理想は吸盤のような”吸着”より密着することを目指します。
この「空気の侵入を防ぐ」という役割を担うのが、入れ歯の縁と、それに接する舌、頬、唇です。
・舌との調和:舌は、発音や嚥下(飲み込み)において非常に重要な役割を果たします。入れ歯の内側の縁が、舌の動きを妨げないように、そして舌と密着するように設計されていないと、少し舌を動かしただけで入れ歯が浮き上がってしまいます。
・頬・唇との調和:頬や唇の筋肉は、食事中に食べ物を歯の上に乗せる役割を担っています。入れ歯の縁が、頬や唇の筋肉の動きを妨げず、かつその筋肉の力で入れ歯を押し付けられるような形になっていなければ、食事中に外れやすくなります。
私たちは、この舌、頬、唇と入れ歯の境界線となる「機能縁(きのうえん)」を、ミリ単位で調整していきます。
型取りの段階で、患者さんの舌や頬の動きに合わせて入れ歯の縁の形を決定し、さらに人工歯を並べる際には、舌が動くスペースを十分に確保します。そして、完成した入れ歯を装着した後に、患者さんが実際に口を動かしながら、違和感のある部分や、動きを妨げている部分を微調整していきます。
この作業は、歯科医師と歯科技工士の連携による、まさに職人技と言えるでしょう。
3. 「噛み合わせの位置」がすべてを決める
ここまでの工程で、どれだけ精密な入れ歯の土台ができたとしても、「噛み合わせの位置」が不正確であれば、その入れ歯は意味を成しません。
噛み合わせの位置とは、上下の歯がどこで、どのような力で噛み合うかという、顎の骨格や筋肉のバランスを決定づける非常に重要な要素です。
・天然歯との違い:天然の歯は、歯の根が骨にしっかりと埋まっているため、少しくらい噛み合わせがずれていても、筋肉や歯周組織の働きで適応することができます。しかし、総入れ歯は顎の土手の上に乗っているだけなので、わずかな噛み合わせのずれが、入れ歯の安定を大きく損なってしまいます。
・噛み合わせのずれが引き起こす問題:
〇痛みや不快感:特定の場所にだけ強い力がかかり、歯ぐきが傷ついたり、痛みが生じたりします。

〇入れ歯の不安定化:噛むたびに片方に力がかかり、入れ歯が外れる原因となります。
〇顎関節症:不正確な噛み合わせが続くと、顎の関節に負担がかかり、顎関節症を引き起こす可能性があります。
〇顔貌の変化:噛み合わせが低すぎたり、高すぎたりすると、顔の印象が変わったり、老けて見えたりすることがあります。
私たちは、この「噛み合わせの位置決め」に、最も時間をかけ、細心の注意を払います。
・正確な位置の記録:患者さんの顎の動き、顎の関節の位置、そして残存している筋肉の動きを詳細に記録します。
・咬合器(こうごうき)の活用:顎の動きを再現できる専用の模型(咬合器)に、患者さんの噛み合わせを正確に再現します。これにより、お口の外で噛み合わせの調整を緻密に行うことができます。
・人工歯の配置:患者さんの顔貌や、舌や頬のスペースに合わせて、人工歯を一つひとつ並べていきます。この段階で、見た目の美しさだけでなく、機能性も同時に追求します。
・正確な咬合調整:噛み合わせの位置決めが正確にできたとしても、入れ歯を作成する段階で様々な変形が起きます。なので完成後にお口の中で入れ歯を正確に調整することは安定した入れ歯を使って頂くためのの重要なポイントです。
まとめ:あなただけの「完全オーダーメイド」
総入れ歯は、単なる既製品や、カタログから選ぶようなものではありません。それは、あなたの顎の形、舌の動き、頬や唇の筋肉、そして顎の関節の動きまでを反映させた、**世界に一つだけの「完全オーダーメイド」**です。
私たちは、精密な型取りから、舌や頬との調和、そして噛み合わせの位置決めまで、一つひとつの工程を妥協することなく、あなたの身体の一部となる総入れ歯を創り出します。
もし、今お使いの入れ歯に「合わない」「痛い」「外れる」といったお悩みをお持ちでしたら、それは決して「入れ歯はこういうものだ」と諦める必要はありません。
ただ、やはり総入れ歯は難しい治療です。特に下顎の場合は上顎に比べると難易度は非常に高くなります。そのような場合は下顎に数本のインプラントを埋入し、”インプラントオーバーデンチャー”という選択肢もございます。


もちろん、入れ歯が嫌だという方はインプラント治療で対応することもできます。
噛めないことを諦めずにまずは近隣の歯科医院、または当院にご相談ください。
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承っております。