2025.10.01コラム
なぜ毎日の歯みがきが、良い治療を受けるための最重要課題なのか?

大阪市中央区心斎橋駅から徒歩1分の西村歯科心斎橋診療所、院長の秦です。
稀にこんな患者さんがいらっしゃいます。
”治療中の歯はあまり磨かなくていい。”、”治療が終了したらしっかり歯を磨けばいいんだ。”と思われている患者さん。
それは歯科医師にとって少し困ったことなんです。
今回のコラムでは治療中におけるプラークコントロール(歯磨き)の重要性を述べたいと思います。
「歯が痛い」「詰め物が取れた」「歯がグラグラする」。
こうした症状で歯医者さんを訪れたとき、私たちは良い質の高い治療をしようと考えます。
最新の技術、経験豊富な医師、そして痛みのないスムーズな治療。しかし、実はその「良い治療」を最大限に引き出し、その効果を長持ちさせる鍵は、歯医者さんでの治療そのものよりも、患者さんの毎日の生活の中に隠されています。
それは、プラークコントロール。つまり、毎日の歯みがきと、それによるお口の中の細菌(プラーク)の管理です。
「プラークコントロールって、ただの歯みがきでしょ?そんなことで、治療の質が変わるの?」
そう思われるかもしれません。しかし、歯科医療の観点から見ると、このプラークコントロールこそが、歯科治療の成功を左右する最も重要な要素なのです。
今回は、なぜ毎日の歯みがきが、良い治療、精度の高い治療を受けるために欠かせないのかを、徹底的に解説していきます。

目次
プラークが引き起こす歯科治療の「妨害」
プラークとは、歯の表面に付着する白くネバネバした細菌の塊です。このプラークには、虫歯菌や歯周病菌など、お口の健康を脅かす無数の細菌が潜んでいます。このプラークが、なぜ治療の妨げになるのでしょうか。
1. 虫歯治療の精度を下げる
虫歯治療では、感染した歯質を正確に取り除き、詰め物やかぶせ物を隙間なく装着することが非常に重要です。しかし、お口の中に大量のプラークが残っていると、以下の問題が発生します。
・病巣の正確な把握が困難になる:プラークが邪魔をして、どこまで虫歯が進んでいるのか、感染した部分と健康な部分の境界線がわかりにくいため、虫歯の部分の取り残しが起きる。
・接着力の低下を招く:詰め物やかぶせ物を歯に接着する際、プラークが付着していると、接着剤が歯にしっかり密着できません。これは、壁にポスターを貼る際に、ホコリやゴミが付いていると剥がれやすくなるのと同じです。
・再感染のリスクを高める:治療した歯の周りにプラークが残っていると、詰め物やかぶせ物のわずかな隙間から細菌が侵入し、再び虫歯になってしまう二次カリエスのリスクが飛躍的に高まります。
2. 歯周病治療の効果を減弱させる
歯周病は、歯を支える骨が溶けていく恐ろしい病気です。歯周病治療の目的は、歯周ポケットに潜む細菌を徹底的に除去し、炎症を抑えることです。しかし、毎日のプラークコントロールが不十分だと、以下の問題が起こります。
・炎症が慢性化する:治療で一時的に細菌を除去しても、すぐにプラークが溜まり、炎症が再発します。これは、火事を消しても、燃えやすいゴミを放置しているようなものです。
・治療の成果が出にくい:歯周病は、患者さんの自己管理が何より重要です。医師がどれだけ精密な治療を施しても、患者さん自身がプラークコントロールを怠ると、歯周組織の再生や回復は望めず、治療は一時しのぎに終わってしまいます。
3. 被せ物やインプラント治療の失敗リスクを高める
精度が高く作られた被せ物や、インプラント治療も、プラークコントロールなくしては長持ちしません。
・被せ物の寿命を縮める:被せ物の縁にプラークが溜まると、そこから虫歯や歯周病が進行しやすくなります。せっかく時間と費用をかけて入れた被せ物が、数年でダメになってしまうケースも珍しくありません。
・被せ物の精度を下げる:精度の高い被せ物(補綴冠)を作成するためにははの状態を鮮明に写した模型が必須になります。鮮明な模型を作成するためには型取り(印象)が重要なポイントです。歯の周りにプラークが付着していると、印象は鮮明に採れず、歯肉が腫れているとさらにその精度は落ちます。鮮明な型取りのためにはプラークコントロールが良好である必要があります。
・インプラント周囲炎を引き起こす:インプラントは、虫歯にはなりませんが、細菌感染によって「インプラント周囲炎」という歯周病によく似た病気にかかります。プラークコントロールが不十分だと、インプラントを支える骨が溶け、最悪の場合、インプラントが抜け落ちてしまいます。
良い治療は「クリーンな環境」でこそ成り立つ

歯医者さんでの治療は、言わば外科手術と同じです。手術室が無菌状態である必要があるように、歯科治療もまた、清潔な環境下でこそ最高のパフォーマンスを発揮します。この「清潔な環境」こそが、プラークコントロールによって築かれるのです。
1. 診査・診断の精度が格段に向上する
お口の中が清潔に保たれていると、歯の表面や歯ぐきの状態がクリアに見えます。これにより、肉眼やレントゲン、口腔内カメラでの診査が格段にやりやすくなり、ごく初期の虫歯や歯周病のサインも見逃すことなく、正確な診断が可能になります。
2. 治療計画の選択肢が広がる
お口の中が良好な状態であれば、より高度で、歯への負担が少ない治療法を選択できます。例えば、歯周病が進行していると、抜歯せざるを得ないケースでも、プラークコントロールを徹底して歯周病が改善されれば、歯を残せる治療法を検討できる可能性が広がります。
3. 治療の効果を最大限に引き出す
プラークがない清潔な環境で治療を行うと、詰め物や被せ物はしっかりと歯に接着し、再治療のリスクが低減します。また、歯周病治療も、炎症が抑えられているため、治癒が促進され、健康な歯ぐきを取り戻すことができます。
歯科医院と患者さんの「協同作業」としての歯科治療

歯科治療は、決して歯科医師だけが行うものではありません。歯科医師が精度の高い治療を提供し、歯科衛生士が適切なケア方法を指導する。そして、患者さん自身がその指導を忠実に実行する。この3者の連携が、歯科治療の成功には不可欠です。
特に、患者さんのプラークコントロールは、治療計画の第一歩であり、治療の最終目標でもあります。治療を始める前にプラークコントロールを徹底していただくのは、今後の治療を成功させるための「準備」であり、治療が終わった後も、その状態を維持していくための「メンテナンス」です。
理想的なプラークコントロールの3つの柱
では、どのようにすれば理想的なプラークコントロールができるのでしょうか?
1.毎日の丁寧な歯みがき:歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスを併用して、歯と歯の間や歯周ポケットのプラークを徹底的に除去することが重要です。
2.プロによるクリーニング:どんなに丁寧にみがいても、歯ブラシの届かない場所や、歯石になってしまったプラークは、自分では取り除けません。定期的に歯科医院でプロのクリーニングを受けることで、お口の中をリセットし、虫歯や歯周病のリスクを低減させます。
3.食生活の改善:糖分を多く含む食品や飲み物の摂取を控えることも、プラークの形成を抑える上で非常に効果的です。
これらの習慣は、一朝一夕には身につきません。だからこそ、私たちは、患者さん一人ひとりに寄り添い、その方に合ったプラークコントロールの方法を一緒に見つけていきます。
まとめ:良い治療は良好なプラークコントロールから
歯の治療は歯医者に行けば受けることはできますが、良好なプラークコントロールは私たち歯科医師が提供できる治療の質を何倍にも高めてくれるのです。良い治療と良い治療結果は患者さんの努力からも生まれます。
私も含めほとんどの歯科医師は精度の高い治療を提供したいと考えています。
そんな時、患者さんがキレイに歯を磨いていただいていると歯科医師は嬉しいものなんです。