2025.10.20Newコラム
なぜ歯医者さんによって治療計画が違うのか?

こんにちは。大阪市中央区心斎橋駅から徒歩1分の西村歯科心斎橋診療所(心斎橋インプラントセンター併設)、院長の秦です。
当院は立地柄なのかわかりませんが、セカンドオピニオンで来院される患者さんや、かかりつけの医院に長く通っていても上手くいかないと来院される患者さんが多くいらっしゃいます。
そんな時によく言われるのが、”なんで歯医者さんによって違うこと言うのですか?”と言う言葉でした。
そんな疑問を持たれている方に少しでも参考になるように、今回のコラムで述べたいと思います。
もしかしたら、このコラムを読んでいる方は「AクリニックとBクリニックで提案された治療法が違う」「前に通っていた歯医者さんと話が違う」といった経験はありませんか?
初めて歯科治療を受ける方、セカンドオピニオンを求めている方にとって、この「治療計画の違い」は大きな不安材料となるかもしれません。
しかし、これは決してどちらかの歯科医師の診断が間違っているわけではありません。むしろ、歯科治療の奥深さと、患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドの医療が提供されている証拠とも言えます。
ここでは、なぜ歯科医院や歯科医師によって治療計画が異なるのか、その複雑な要因を掘り下げて詳しくご説明します。この知識を持つことで、あなたはご自身の希望やライフスタイルに合った、本当に納得できる治療計画を見つけられるようになるでしょう。
目次
Ⅰ. 歯科医師の「技術」「経験」「教育」という医療者側の要因

治療計画の土台となるのは、それを立案する歯科医師の知識と技術です。この医療者側の要因が、治療の選択肢やアプローチを大きく左右します。
1. 治療の難易度と歯科医師の専門性の違い
歯や顎の病気は、すべてが均一なわけではありません。虫歯一つとっても、エナメル質だけにとどまる軽度なものから、歯髄(神経)に達し、根の先に膿が溜まるほどの重度なものまで様々です。
●難易度への対応力:
特に根管治療(歯の根の治療)や、顎の骨の状態が複雑なインプラント治療、歯並び全体を扱う矯正治療など、高度な技術や知識を要する症例では、歯科医師の専門性によって、そもそも「治療可能」か「不可能」かの判断すら変わることがあります。
高い難易度の症例に対し、経験の豊富な歯科医師は「歯を残す」ための複雑な処置を提案できますが、そうでない場合は「抜歯」という選択肢を提案せざるを得ない場合もあるのです。
2. 治療技術(スキル)と経験年数による判断基準の違い
歯科医師の経験年数や、これまで積んできた症例数、そして日々の研鑽の積み重ねは、治療計画に直接的な影響を与えます。
●判断基準の傾向:
経験の浅い歯科医師は、教科書通りの定石的な治療法を選択しがちですが、経験豊富な歯科医師は、過去の成功例や失敗例から得た知識に基づき、**「この患者さんにはこの方法が最も長持ちする」**という、個別化された判断を下せます。
例えば、歯を「削るか?削らないか?」の判断一つとっても、教育を受けた大学や師事した先生の方針によって、「なるべく削らず経過観察する」という方針と、「早期に確実に除去する」という方針に分かれることがあります。
3. 最新技術・設備への投資と活用の違い
現代の歯科医療は日進月歩で進化しています。歯科医院がどのような設備を導入し、それを使いこなす技術を持っているかも、治療の幅を決定づけます。
●設備の有無による選択肢:
**マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)**を導入している医院では、肉眼では見えないレベルで虫歯や根管内を詳細に確認できるため、「精密根管治療」や「歯を残すための接着治療」など、極めて精密な治療計画が可能になります。
歯科用CTがあることで、神経や血管の位置、顎の骨の立体的な状態を正確に把握でき、インプラント手術などの安全性を高める計画を立てられます
これらの設備がない場合、歯科医師は経験と勘に頼らざるを得ず、より安全側の選択肢として、予防的な抜歯や、より一般的な治療法を選択することになる可能性があります。
4. 医院の**「治療理念・方針」**による違い

すべての歯科医院には、院長先生が掲げる独自の治療理念やポリシーが存在します。
・予防を重視する医院: 定期的なクリーニングやフッ素塗布、歯磨き指導などを重視し、治療後の再発防止に重点を置いた計画を提案します。
・審美性を重視する医院: 保険診療外の白い詰め物・被せ物(セラミックなど)を積極的に活用し、治療後の見た目の美しさを最大限に引き出す計画を提案します。
・矯正・インプラントなど特定分野に特化した医院: 一般診療の枠を超え、専門性の高い治療を軸とした総合的な治療計画を提案します。
この医院の根本的な方針によって、「長期間かかるが歯を温存する計画」と「短期間で完了するが抜歯も視野に入れた計画」といったように、治療の方向性が変わってくるのです。
Ⅱ. 患者さんの「希望」「身体の状態」「予算」という個別性の要因
歯科治療は、患者さんの口腔内の状態だけでなく、患者さんご自身の意向や全身の健康状態、さらには経済的な状況も考慮して計画されます。
1. 患者さんの希望する「ゴール」の違い

「歯の治療」と一口に言っても、患者さんが求めるゴールは千差万別です。
・機能性重視: 「痛みが取れて、しっかり噛めれば良い」
・審美性重視: 「銀歯ではなく、天然の歯と同じ色にしたい」
・短期集中希望: 「仕事の都合で、できるだけ早く終わらせたい」
・歯の温存希望: 「たとえ時間がかかっても、1本でも多く自分の歯を残したい」
これらの患者さんの希望を最優先した結果、選択される治療法や使用する材料、通院期間が変わり、治療計画も個別化されます。例えば、見た目を最優先する場合、必然的に自費診療のセラミックを用いた治療計画が提案されることになります。
2. 全身の健康状態(基礎疾患)とライフスタイル
歯科治療は、お口の中だけで完結するものではありません。患者さんの全身の健康状態が、治療計画に大きな制約を加えることがあります。
●基礎疾患の影響:
・高血圧や心臓病などで抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)を服用している方は、抜歯やインプラント手術などの外科処置を行う際に、出血リスクを考慮した計画が必要になります。
・糖尿病の方は、手術後の傷の治りが遅れたり、感染症のリスクが高まるため、治療前に血糖値をコントロールしてもらうための期間を設けたり、慎重な計画が求められます。
●ライフスタイル:
・遠方からの通院で頻繁に来院が難しい方には、一回の治療時間を長く取る「短期集中型」の計画が適しているかもしれません。
・逆に、高齢の方や体力の消耗を避けたい方には、治療を細かく分け、ゆったりと進める計画が適しています。
歯科医師は、問診で得られた全身情報を基に、安全第一で無理のない治療計画を立てるため、結果として標準的な計画とは異なるアプローチになることがあります。
3. 「保険治療」か「自費治療」かという制度の違い

日本の歯科医療の大きな特徴である「保険診療」と「自費診療」の区別は、治療計画に最も大きな影響を与えます。
●保険診療の制約:
国が定めたルールに基づいて行われるため、使用できる材料や治療法が限定されます。例えば、奥歯の被せ物には「銀歯(金銀パラジウム合金)」が主となり、治療に使える機器や手順も限定的です。
治療計画は、この**「制限」の中で最善を尽くす**ことを前提に立てられます。
●自費診療の可能性:
費用は全額自己負担となりますが、治療法や材料に制限がありません。
セラミックやゴールドといった、より耐久性・審美性に優れ、歯に優しい材料を使用できます。また、前述のマイクロスコープなど、保険外の精密機器を駆使した高度な治療手順を計画に組み込むことができます。
この違いは、単なる材料の違いにとどまらず、「歯を何年持たせられるか」「再治療のリスクをどれだけ下げられるか」といった治療の質に直結するため、治療計画が根本から変わってくるのです。
4. 治療費の「予算」と費用対効果のバランス
治療計画を決定する上で、患者さんの経済的なご予算は避けて通れない現実的な要因です。
歯科医師は、本来であれば理想的な治療法(多くは自費診療)を提示しつつも、患者さんの予算内で最大限の効果が得られる現実的な代替案を提案する義務があります。
例えば、すべての歯を自費のセラミックに置き換えることが理想的でも、予算が限られている場合は「目立つ前歯だけを保険外の白い歯にし、奥歯は機能性を重視して保険診療にする」といったように、優先順位を考慮した計画となります。
歯科医師は、患者さんの経済状況を尊重し、費用対効果の高い、無理のない範囲での最良の解決策を提案するため、話し合いを通じて治療計画が調整されていくのです。
Ⅲ. 納得のいく「最適な治療計画」を見つけるために
治療計画が歯科医院によって異なるのは、これほど多くの要因が複雑に絡み合っているからです。大切なのは、「どれが正しい」かではなく、「あなたにとって何が最善か」です。

1. カウンセリングで自分の希望を明確に伝える
治療計画は、歯科医師と患者さんの共同作業によって作り上げられます。遠慮せず、ご自身の希望や懸念を明確に伝えてください。
・「何を優先したいか」:費用、審美性、治療期間、歯の温存、など、最も重視したい点を伝えます。
・「ライフスタイル」:仕事で忙しく通院が難しい、家族の介護がある、など、通院に影響する事情を伝えます。
2. 複数の選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを質問する
提案された治療法が一つだけであっても、「他に選択肢はありますか?」「その治療法のメリットとデメリット、費用、治療期間を教えてください」と質問しましょう。
特に、保険診療と自費診療の違いについて、**「なぜこの症例で自費診療を勧めるのか」「自費診療にすることで保険診療と比べて具体的に何が良くなるのか」**を掘り下げて聞くことが、納得感につながります。
3. 「セカンドオピニオン」を積極的に活用する
もし治療計画に不安を感じたり、高額な治療を提案されたりした場合は、他の歯科医院でセカンドオピニオン(第二の意見)を求めることをお勧めします。
異なる歯科医師の視点やアプローチを知ることで、ご自身の状況をより多角的に理解でき、最終的に「この先生とこの治療計画なら任せられる」という安心感を持って治療に進むことができるでしょう。
まとめ
歯科医院によって治療計画が違うのは、**「歯科医師の持つ技術や専門性」と「患者さん一人ひとりの異なる希望、口腔内の状態、経済的な事情」**を、総合的に判断した結果だからです。
当院では、患者さんの意向と医学的な根拠を尊重し、複数の選択肢とその後の予後(治療の持ち)を丁寧に説明することを最も大切にしています。
治療は、歯科医師の一方的な決定ではなく、患者さんとの対話を通じて築き上げられるものです。不安な点や疑問点は、どうぞお気軽にご相談ください。一緒に、あなたにとって最善の治療の「地図」を作り上げていきましょう
お電話でも tel:06-6253-2900
承っております。